2005/06/23 代数学幾何学及び演習 I (古津先生) 前回から行列の話が始まった。 今回の最初は、区分けの具体的な例から [例] (3,4) 型 # 行、列、共に二に分けてみる 0 0 | 1 2 A = ( A_11 A_12 ) = ( 0 0 | 3 4 ) A_21 A_22 -----+------ 1 -1| 2 -1 (4,4) 型 1 | 1 -1 2 2 | -1 1 -2 B = ( B_11 B_12 ) = ( --+---------- ) B_21 B_22 3 | 0 0 0 4 | 0 0 0 # 区切るのは、0 の部分が切り出せると、後の計算が楽 この例では、 A_11 = O B_22 = ) なので、計算が楽。 A_11 B_11 + A_12 B_21 | A_11 B_12 + A_12 B_22 AB = ( -----------------------+----------------------- ) A_21 B_11 + A_22 B_21 | A_21 B_12 + A_22 B_22 # この部分は、区分けが 2x2 同士なので、常に成立する # 後は、具体的に計算するだけ # 区分けの中に O ( 零行列 ) があるので、計算が楽になる !! 11 | 0 0 0 = ( 25 | 0 0 0 ) ---+------ 1 | 2 -2 4 Text の例 1 では、A_21, B_21 が零行列の場合で、 A_11 | A_12 B_11 | B_12 ( -----+----- ) ( -----+------ ) O | A_22 O | B_22 A_11 B_11 | A_11 B_12 + A_12 B_22 = ( -----------+----------------------- ) O | A_22 B_22 更に、A_12, B_12 も零だと.. A_11 | O B_11 | O ( -----+----- ) ( -----+------ ) O | A_22 O | B_22 A_11 B_11 | O = ( -----------+-------------- ) O | A_22 B_22 [例2] (m,n) 型 行列を縦ベクトルで分けた物も区分け A=(a_1|a_2|..|a_n) これを利用すると XA=(Xa_1|Xa_2|..|Xa_n) も区分け同士の掛け算として説明できる。 == [正方行列] # 行と列の数が同じ数は特別な性質があるので、これにも名前を付ける def) (n,n) 型の行列を n 次「(正方)行列」と呼ぶ。 正方行列全体の集合においてはは、和、差、積ができる O=O_{n,n} は和の単位元 E_n は積の単位元 # だから、実は、環にはなっているが.. # 割り算はできるか ? 実数の世界では、a \ne 0 なら、 ax=xa=1 となる x が存在 (逆元 x=\frac{1}{a} ) => ax=b を満す x が唯一つ存在した ( x = \frac{b}{a} # 処が... [問1] A = ( 1 2 ) に対して AX=E, YA=E となる X, Y が存在しない 2 4 prof) X = ( x y ) として AX=E に代入して両辺を比較すると.. u v x+2z=1 2x+4z=0 y+2w=0 2y+4w という方程式が成立するが、これは不能 (解なし) よって、このような X は存在しない。 # Y も同様 [問2] A=( 1 2 ), B = ( 1 2 ) とすると、 0 0 3 4 AX = B となる X は存在しない。 YA = B となる Y は無数にある。 prof) Y = ( x y ) と置いて、連立方程式を立てると u v x=1, z=2, y, w は任意となる つまり、 Y = ( 1 y ) は、 YA=B を満す。 2 w y, w は任意なので、無数に答えがある [問3] n 次行列 A=(a_1, .., a_n) で \exsit i s.t. a_i = 0 ならば、 XA = E となる X は存在しない。 prof) 任意の X に対して XA = ( Xa_1, .., X_an ) ここで、Xa_i = 0 より、 XA \ne E [定義] ( 正則行列 ) # O 以外でも逆行列がない場合が沢山あるので、逆行列がある場合を特別に扱い、名前をつける A : n 次行列に対して、 XA=AX=E となる行列 X が存在するとき 「A は正則行列」 といい、 X を A の逆行列 ( X=A^{-1} で表す ) という。 [定理] 逆行列は一つ prof) X, Y が共に A の逆行列だとすると XAY = (XA)Y = EY = Y = X(AY) = XE = X よって、 X=Y [2.1] イ) A : 正則 => A^{-1} は正則 (A^{-1})^{-1} = A ロ) A, B : 正則 => AB も正則で、 (AB)^{-1} = B^{-1}A^{-1} prof) A = X とすると、 A^{-1}X = A^{-1}A = E AA^{-1} = AA^{-1} = E よって、A^{-1} は正則で、その逆行列は A 自身 B^{-1}A^{-1} = X とすれば (AB)X = ABB^{-1}A^{-1} = AEA^{-1}=AA^{-1} = E X(AB) = B^{-1}A^{-1}AB = BEB^{-1}=BB^{-1} = E よって、AB は正則であり、逆行列は、B^{-1}A^{-1} # A が正則であることを示す方法の1つは、具体的に行列を与えて、掛けると E になることを示すこと # 他に、A が正則であることを示す方法もあり、それは後に学ぶ [定義] (対称区分け) n 次(正方) 行列を、行も列も同じ数の同じサイズで分割すると、個々の区分け A_ij も正方行列になる、このような行列を正方行列の「対称区分け」と呼ぶ。 [定理(2.2)] A = ( A_11 | A_12 ) を対称区分けとする。 O | A_22 この時 A_11, A_22 正則 => A も正則 # 実は ( <= ) も成立するが、その証明には、「基本行列操作」を使うので、後で行う。 prof) X = ( A_11^{-1} | -A^{-1} A_12 A_22^{-1} ) O | A_22^{-1} とすれば、 XA = E となる ( 途中の計算は略、実際にやってみる !!)。 # 4 次元の行列の逆行列を計算するのは、一般には大変だが、 # 右下の区画が 0 ならば、簡単に逆行列が計算できる。 [定理(2.3)] A_11 | O | O .| O ------+-----+----+----- A = ( O |A_22 | O | ) ------+-----+----+----- O | O | .. | ------+-----+----+----- O | O | | A_nn を対称区分けとする。 A_11, A_22, .., A_nn が 正則 => A も正則 # この時も ( <= ) が成立するが、その証明には、「基本行列操作」を使うので、後で行う。 prof) # いまのところ、正則の証明は具体的な X を作るしか手段がない.. A_11^{-1} | O | O .| O -----------+----------+----+-------- X = ( O |A_22^{-1} | O | ) -----------+----------+----+-------- O | O | .. | -----------+----------+----+--------- O | O | | A_nn^{-1} とすれば、AX = E となる ( 計算は略 ) [定義] A = ( a_ij ) において、 a_ii ( i=1,..,n ) を「行列 A の対角成分」と呼ぶ [定義] 対角成分以外の成分が全て 0 の行列を「対角行列」と呼ぶ [定理(2.4)] A が対角行列とする。 a_ij = a_i ( i = j の時 ) = 0 ( i \ne j の時 ) この時 A が正則 <=> \forall i a_i \ne = 0 prof) ( <= ) X = ( x_ij ) x_ij = a_i^{-1} ( i = j の時 ) = 0 ( i \ne j の時 ) とすれば、AX = E。 ( => ) # 対偶を示す。 \exist i s.t. a_i = 0 とすると、A は対角行列なので A= ( a_1, a_i, .. a_n ) とすれば、 a_i は 0 なので、 text p.41 問 3 より逆行列が存在しない。 [定義] cE ( c \in \C ) の形の行列を「スカラー行列」と呼ぶ。 [定理] A : n 次行列 AX=XA ( \forall X ) <=> A はスカラー行列 prof) ( <= ) # こっちは簡単 A=cE とすれば、 AX = cEX = cX XA = XxE = cX よって、 AX=XA (=>) # 次のような特別な行列 E_pq を考える E_pq = ( e_ij ), e_ij = 1 ( i=p, j=q の時 ) = 0 ( それ以外 ) を考え、 A = ( a_ij ) に対し、X=E_pq としてみる。 すると、 AX = A( 0, , e_p, 0, .. 0 ) = ( A0, , Ae_p, A0, .., A0 ) = ( 0, , a_p, 0, .., 0 ) 逆に、XA も計算し、 AX=XA であるという条件を使い、p,q を色々と 変化させると、a_ij に関して次の条件が出る a_ij = 0 ( i \ne j ) a_11 = a_22 = .. = a_nn 上の1つ目条件より、A が対角であることが、二つ目の値 を c とすると、 これは、 定数行列 A = cE であることが解る。 [定義] A=(a_ij) の対角成分の和 ( \Sum_{i=1}^n a_{ii} ) を A の固有和 A のトレース と呼び、 Tr A で表す。 Tr A = \Sum_{i=1}^n a_{ii} [定理(2.6)] Tr cA = c Tr A Tr(A+B)= Tr A + Tr B Tr(AB) = Tr(BA) # 行列式もそうだが、交換して等しくなるのは、行列では稀 prof) AB= (c_ij) とおくと Tr(AB) = \Sum_{i=1}^n c_{ii} = \Sum_{i=1}^n\Sum_{j=1}^n a_ij b_ji 一方、BA = (d_ij) とすれば、 Tr(BA) = \Sum_{i=1}^n dii = \Sum_{i=1}^n\Sum_{j=1}^n a_ij b_ji = \Sum_{i=1}^n\Sum_{j=1}^n a_ij b_ji # 有限個の足し算の和の順序はどうかえても値は変らないので.. = \Sum_{j=1}^n\Sum_{i=1}^n b_ji a_ij = Tr(AB) [定義] AA を A^2 で表す。 A の n 回の掛け算を A^n で表す。 # n は自然であることを仮定 [定義] A が正則の時に A^0 = E A^{-n} = (A^{-1})^n で定義する。 [定理] ( k, l は整数で良い ) A^k A^l = A^{k+l} (A^k)^l = A^{kl} [定理(2.7)] BA=AB ならば (AB)^n = A^n B^n prof) k に関する帰納法による。 k=1 の時は、 (AB)^1 = AB = A^1B^1 k=n の時に成立すると仮定すると (AB)^{n+1}=(A^nB^n)(AB) = A^n B^{n-1}ABB = A^n B^{n-2}AB^2B = .. = A^nA B^nB = A^{n+1} B^{n+1} よって、n+1 の時も成立する。 # n が自然数の時には、これで Okey だが、 n が、一般に整数、つまり負の場合は、 # AB^{-1}=B^{-1}A であることを利用すればよい # ∵ # AB = BA # なので左右から B^{-1} をかけると.. # B^{-1}(AB)B^{-1}=B^{-1}(BA)B^{-1} # よって、 # AB^{-1}=B^{-1}A # 次回は、線型変換の話から、基本行列変形に入るまであたりをやる