代数幾何 I 古津先生 (2006/07/06) # 試験範囲、次回の講義の終った所まで # # 一応 2 章の範囲から rank の計算が出る。 # 今日の内容は、前回に引続き、行列の話 # 前回の最後は、区分けだった # 本日の内容は、主に正方行列で、その中でも特に正則行列 定義 (正方行列) (n,n) 型の行列 # 縦と横の大きさが同じ n 次 (正方) 行列 # 平面、空間の場合は、n が 2, 3 時。つまり、これは、一般化されたもの この行列の和、差、積は、一般の行列と同じだが、特に積がまた、n 次正方行列に なるので、「積に関しても閉じている」ということが言える 同様に 和の単位元 On, 掛け算の単位元 En もある。 # 和、差、積に関しては、普通の数 ( R, C ) と同じだが.. 問 1. A = ( 1 2 ) 2 4 の時、AX=E となる X = ( x y ) u v は、存在しない。 [証明] AX = ( x+2z y+2w ) = ( 1 0 ) 2x+4z 2y+4w 0 1 これより、 x+2z = 1 2x+4z = 0 y+2w = 1 2y+4w = 0 となるが、これを満す、x, y, z, w は存在しない。 したがって、このような X も存在しない YA となる Y についても同様。 問 2. A = ( 1 2 ) 0 0 B = ( 1 2 ) 2 4 の時 AX = B となる X は存在しない XY = B となる Y は無数に存在する [証明] 前半は、前問と同様 後半も、連立方程式が無数に答を持つため 問 3. A = ( a_1, a_2, .., a_n ) で、 ある a_i が 0 だとする すると、 AX = E となる X は存在しいない [証明] XA = ( Xa_1, .., Xa_n ) よって、 Xa_i = 0 ところが、E には、0 となるベクトルが含まれないので、これが一致することはない # つまり、割り算 ( 逆数 ) がうまく行かない # よって、うまく行くものだけを取り出してみる。 定義 (正則行列) A : n 次行列 の時 XA=AX となる行列 X が存在するとき、 X を A の逆行列 と呼び、 A^{-1} とかく。 また、この時、 A は正則である と言う。 定理 A が正則ならば、逆行列は唯一つ YA = AY = E とする。 X = XE = X(AY) = (XA)Y = EY = Y # しばらく、この正則行列の性質に関して述べる # 実は、XA = E ならば、XA = E が言えるので、定義としては、片方 # だけでもよいのだが、これを示すには、後に学ぶ基本変形が必要に # なるので、ここでは両方を利用して定義する。また、このことはそ # の時に振れる。 定理 [2.1] A : 正則 => A^{-1} も正則 proof) A^{-1} は A の逆行列なので AA^{-1} = A^{-1}A = E これを A^{-1} に着目して考えると、A^{-1} に A を左からかけても右からかけても E になるのでこのような行列は A^{-1} の逆行列である。すなわち、 A^{-1}^{-1} = A A, B 正則なら AB も正則 proof) (AB)^{-1} = B^{-1}A^{-1} であることを確かめる。 # 実際に左右からかけて E になることを確かめる 問 1. A : 正則 => \bar{A}, ^tA も正則 # 自分でやる 問 2. A = ( a b ) : 正則 <=> ad-bc \ne 0 c d # 自分でやる 定義 (対称区分け) 正方行列を区分けする時に、行と列の区分けのしかたを同じにする これを対称区分けと呼ぶ この時、小行列もまた、正方行列になる。 定理[2.2] A = ( A11 A12 ) を A の対称区分けの時 O A22 A11, A22 が正則 => A も正則 # 実は、逆も言えるが、そのことは後でまた振れる [証明] A^{-1} = ( A11^{-1} -A11^{-1}A12A22&{-1} ) O A22^{-1} であることを、実際に A にかけて E になることを確かめればよい。 # 0 を成分とする行列の逆行列は、対称区分けをすれば、求め易い # 次の例は、もっと、0 が多い場合 定理[2.3] A11 O O .. O A = ( O A22 O .. O ) O O A33 O ......... O .. O Ann が、A の対称区分けの時 A : 正則 <-> Aii が正則 A11^{-1} O .. O A^{-1} = ( O A22^{-1} O .. O ) ( これを B とおく ) O O A33^{-1} O ......... . O Ann^{-1} proof) (<=) Aii^{-1} が存在するので、B が作れる。 そこで、 A に実際に B をかけてみればよい (=>) A^{-1} が存在するので、これを区分けする A A^{-1} を計算すると E となるので、これの成分を比較すると XiiAii = E となるので、Aii が正則であることが解る。 形が、B になるのは、上と同じ [定義] A = (aij) で、 aii を対角成分 と呼ぶ。 対角成分以外が 0 である行列を対角行列 と呼ぶ [定理] A, B が共に対角行列ならば、AB=BA。すなわち積が交換可能である。 [定義] cE の形の行列をスカラー行列と呼ぶ [定理] A : スカラー行列 <-> \forall AX = XA [証明] (=>) 明らか ( 実際にかけてみて、確かめてもよい ) (<=) 任意の X に関して成立するので、 X = Epq ( p,q 成分のみが 1 で他が 0 の行列) でも成立するはずである。 A = ( aij ) とすると、 AX = ( 0 0 .. A の q 列 0 0 ) XA = ( O ) O A の p 行 O となる。 AX=XA なので、 aip = 0 ( i \ne p ) aqj = 0 ( j \ne q ) app = aqq これが、任意の p, q で成立するので、 aij = 0 ( i \ne j ) a11 = a22 = .. = ann よって、スカラー行列。 # 後で学ぶ、(シュアのレンマ)の特別な場合 [定義] A = (a_ij) の時 A の対角成分の和を A の トレース (固有和) といい Tr A ( tr A ) で表す。 Tr A = \sum_{i=1}^n a_ii [定理] Tr(A+B) = Tr A + Tr B Tr(cA) = c Tr A Tr(AB) = Tr(BA) # 注意 Tr(AB) \ne Tr(A)Tr(B) であることに注意 [証明] 最後の分の途中まで ( 残りは自分で.. ) AB = ( \sum_{j=1}^n aij bjk ) よって、 Tr(AB) = \sum_{i=1}^n ( \sum_{j=1}^n aij bjk ) 同様により BA = ( \sum_{j=1}^n bij ajk ) よって、 Tr(BA) = \sum_{i=1}^n ( \sum_{j=1}^n bij ajk ) # 後は、この二つが等しいことを言えばよい [定義] AA = A^2 A..A = A^k ( k \in \N ) [定理] A^nA^m = A^{n+m} AB=BA = (AB)^k = A^kB^k 特に、 A^0 = E, A^{-k} = (A^k)^{-1} とすれば、 上の定義や、定理は、 k \in \Z でも成立 == 行列と線型写像 C^n = { n 項列ベクトル } [定義] T : C^n --> C^m が線型とは T(x+y) = T(x)+T(y) T(cx) = cT(x) が成立すること。 [定理] A : (m.n) 型 T_A : C^n ---> C^m \in \in x |---> Ax は線型 # 平面や、空間では、線型写像は、全て、行列で表現できたが、これの一般化を行う [定理] T: C^n --> C^m : 線型 e_1, .., e_n : n 項単位ベクトル Te_i = a_i A = ( a_1, .., a_n ) とすれば、 T = T_A である。 [証明] T_A(e_j) = Ae_j = a_j = Te_j よって、 x \in C^n = ( x_1 ) = \sum_{j=1}^n x_j e_j x_2 .. x_n となるので、 T_A(x) = \sum_{j=1}^n T_A e_j = \sum_{j=1}^n T e_j = T(x) すなわち、任意の x について T_A(x) = T(x) なので、 T_A = T よって、平面、空間と同様、線型変換と行列の間に次のような一対一の対応がある {(m,n) 型の行列} <---> { T : C^n --> C^m 線型 } [定理] (線型変換の合成) T : C^n --> C^m が線型変換で、対応する(m,n)行列が A S : C^m --> C^l が線型変換で、対応する(l,m)行列が B すなわち、 T = T_A S = T_B この時 S・T : C^m --> C^l : 線型で S・T(x) = B(Ax) 即ち、 T_B・T_A = T_{BA} # 実は、これがこうのようになるように行列の掛け算を定義したのであった # 特に、正方行列に限定すると { n 次行列 } <---> { C^n の線型変換 } [定理] A : 正則 => T_{A^{-1}} は T_A の逆変換 [定義] I : C^n --> C^n \in \in x |--> x を恒等変換と呼ぶ。 [定義] S が T の逆変換とは S・T = T・S = I [証明] # 実際に I になることを確認する # ここまで、C^n で議論したが、これを実数に制限し、R^n で議論もできる R^n = { 実 n 項 実ベクトル } { (m,n} 型行列 } <---> { T : T^n --> T^m 線型 } # n=m=2 の時平面、n=m=3 の時空間 == # 来週、基本計算を学び、これで、rank の計算 # 去年の問題を数字を変えただけで出したら、rank も入ってしまった 【基本変形】( 大変重要な概念で、後期一杯にこれが利用されるので、ここで押えておく ) [定義] 基本変形とは、次のような三種類の基本行列を右と左からかけること ( 3 x 2 = 6 通り ) (左 1) 二つの行を入れ替える (右 1) 二つの列を入れ替える (左 2) ある行に 0 でない数をかける (右 2) ある列に 0 でない数をかける (左 3) ある行に、他のある行の定数倍を加える (左 3) ある列に、他のある列の定数倍を加える 基本行列 P_n(i,j) Q_n(i;c) R_n(i,j;c) [定理] 基本行列は、正則 proof) P_n(i,j)P_n(i,j)=E よって、P_n(i,j)^{-1} = P_n(i,j) Q_n(i;c)Q_n(i,1/c)=E よって、Q_n(i;c)^{-1} = Q_n(i,1/c) R_n(i,j;c)R_n(i,j;-c)=E よって、R_n(i,j;c)^{-1}=R_n(i,j;-c) 基本変形は、正則行列を掛け算して、単純な形にすることに利用される。 次回の rank の計算では、基本変形により標準形に変形を行い、 標準形の rank の値をもって、もとの変形前の行列の rank を計算する 後期に学ぶ様々な計算は、全て、方針として、基本変形で計算しやすくする形にするのがポイント