内積 x, y \in C^n を考える これは、n 項目ベクトルなので、(n,1) 型の行列と思うことができる すると、これの転置 ^t x は (1,n) 型の行列となる。 行列の積 ^t x \bar{y} は、(1,1) 型の行列となるが、この行列をその唯一の成分と同一視すると、 これは、複素数となる。 この複素数値を x と y の「内積」と呼び、 (x,y) あるいは x ・ y で表す。 # 講義では、(x,y) の方を利用する 特に、成分で考えると、 x_1 x = ( x_2 ) .. x_n y_1 y = ( y_2 ) .. y_n は、 (x,y) = ^t x \bar{y} = x_1 \bar{y_1} + x_2 \bar{y_2} + .. + x_n \bar{y_n} = \sum_{i=1}^n x_i \bar{y_i} となる。 特に、x, y が実ベクトル ( すなわち、x_i, y_i \in R ) の時、 \bar{y} = y なので、 (x,y) = \sum_{i=1}^n x_i y_i となる。 以前にやった、平面や、空間のベクトルの内積は、成分が実数となるので、実は、この内積と一致する。 すなわち、今回の内積の定義は、以前の内積の一般化 ( 複素ベクトルを含めたもの.. ) [定理 6.1] (x_1+x_2,y) = (x_1,y) + (x_2,y) (x,y_1+y_2) = (x,y_1) + (x,y_2) -- この二つを (2) (c x, y) = c (x,y) (x, c y) = \bar{c} (x,y) -- この二つを (3) (y,x) = \bar{ (x,y) } -- (4) # (3) と (4) を合せて「共役線型性」と呼ぶ (x,x) \in R (x,x) >= 0 (x,x) = 0 <=> x = 0 -- この三つを (4) # (5)を「正値性」と呼ぶ proof) # (2) (x_1+x_2,y) = (x_1+x_2)\bar{y} = ^t x_1\bar{y} + ^t x_2\bar{y} (行列の線型性) = (x_1,y) + (x_2,y) # (3) (x, c y) = ^t x \bar{c y} = ^t x \bar{c} \bar{y} = \bar{c} ^t x \bar{y} = \bar{c} (x,y) # (4) (y,x) = \sum_{i=1}^n y_i \bar{x_i} = \sum_{i=1}^n \bar{x_i \bar{y_i}} = \bar{\sum_{i=1}^n x_i \bar{y_i}} = \bar{(x,y)} # (5) (x,x) = \sum_{i=1}^n x_i \bar{x_i} = \sum_{i=1}^n |x_i|^2 よって、 \in R かつ >= 更に、 (x,x) = 0 とすると、 |x_i| = 0 ( forall i ) なので、 x_i = 0 ( forall i ) 即ち x = 0 # 正値性が示されたので、長さの定義に入る [定義](長さ) |x| = ||x|| = \sqrt{(x,x)} = \sqrt{\sum{i=1}^n |x_i|^2 をベクトル x の長さ ( ノルム ) となる。 # 教科書では、||x|| を用いているが、講義では |x| を用いる # 普通、長さといえば|x|, ノルムといえば、||x|| を用いることが多い ( が、例外もある.. ) [定理 6.2] イ) |(x,y)| <= |x| |y| (シュワルツ不等式) ロ) |x+y| <= |x| + |y| (三角不等式) # この不等式は、ここだけでなく、様々な分野で現れる重要な公式 proof) イ) y = 0 なら、Okay、y \ne 0 として、a,b を任意の複素数 0 <= |ax+by|^2 = (ax+by,ax+by) = a\bar{a}(x,x)+a\bar{b}(x,y)+b\bar{a}(y,x)+b\bar{b}(y,y) # ここで、後の定数を前に出す時に\bar が必要なことに注意 (共役線型性) = |a|^2|x|^2 + a\bar{b}(x,y)+b\bar{a}\bar{(x,y)} + |b|^2 |y|^2 となる。ここで、 a = |y|^2, b = - (x,y) とおけば、 0 <= |y|^4|x|^2(-(\bar{(x,y))(x,y) + |y|^2(-(x,y))\bar{(x,y)}+|(x,y)^2|y|^2 = |y|^4|x|^2-|y^2|(x,y)|^2 ここで、|y|>0 なので、 0 <= |x|^2|y|^2 - |(x,y)|^2 よって、 |(x,y)|^2 <= |x|^2|y|^2 ここで、|(x,y)| >= 0, |x||y| >= なので両辺の平方根をとっても成立するので、 |(x,y)| <= |x||y| となる。 ロ) |x+y|^2 = |x|^2 + (x,y) + (y,x) + |y|^2 <= |x|^2 + 2|(x,y)| + |y|^2 ( これは後で示す (*) ) <= |x|^2 + 2|x||y| + |y|^2 ( シュワルツの不等式 ) = ( |x| + |y| )^2 更に、|x+y|, |x|+|y| が共に非負値なので、平方根を取ってもよい よって、 |x+y| <= |x| + |y| # 先程の (*) を示す ( 複素数の性質 ) z \in C => z + \bar{z} <= 2|z| proof) z = x + y i ( x, y \in R ) とおくと \bar{x} = x - y i となるので、 z + \bar{z} = 2 x = 2 Re z 一方 |z| = \sqrt{ x^2 + y^2 } >= |x| なので、 z + \bar{z} <= 2 |z| # シュワルツは人の名前 # 三角不等式は、「三角形の辺の長さの関係」を示しているので、図形的な性質から.. [定義] (直交) (a,b) = 0 の時、a, b は「直交する」という # a と b のどちらか、あるいは両方が 0 ベクトルの時には、二つのベクトルの角度は定義されないが、そのような場合でも、「直交する」と考えることにする。 この時 a ↓ b で表す。 問 1 |x+y|^2 + |x-y|^2 = 2 ( |x|^2 + |y|^2 ) proof) (左辺) = |x|^2 + (x,y) + (y,x) + |y|^2 + |x|^2 - (x,y) - (y,x) + |y|^2 = 2 ( |x|^2 + |y|^2 ) = (右辺) 問 2 x ↓ y => |x+y|^2 = |x|^2 + |y|^2 proof) |x+y|^2 = |x|^2 + 2 Re(x,y) + |y|^2 = |x|^2 + |y|^2 (∵ Re(x,y) = 0 ) 特に、x,y \in R^n ならば、 |x+y| = |x|^2 + |y|^2 => x ↓ y も成立する proof) |x+y| = |x|^2 + |y|^2 より Re(x,y) = 0 ところが、x, y \in R^n より Re(x,y) = (x,y) よって、 (x,y) = 0 なので、 x ↓ y [注意] x ↓ y |x+y|^2 = |x|^2 + |y|^2 ⇔ ⇔ (x,y) = 0 => Re (x,y) = 0 <= は実の時 [反例] 1 i x = ( 0 ) y= (0) .. .. 0 0 では、|x+y|^2 = |1+i| = 2, |x| = |y| = 1 なので、 |x+y|^2 = |x|^2 + |y|^2 となるが、 (x,y) = -i \ne 0 なので、直交しない # 複素数の計算は、今後も度々利用するので、もう一度復習しておくこと !! 問 3 x, y \in R^n => (x,y) = 1/4 ( |x+y|^2 + |x-y|^2 ) proof) 問 1 より (左辺) = Re (x,y) = (x,y) ( x, y \in R^n なので ) [反例] 上記の 例 2 の x, y 右辺の値は (x,y) = -i だが、 |x+y|^2 = 2, |x-y|^2 = 2 なので、右辺は 0 となってしまう [定理 6.3] A : ( m, n ) 型 ( A x, y ) = ( x, ^t A y ) ( \forall x \in C^n , y \in C^m ) -- (9) 逆に ( A x, y ) = ( x, B y ) ( \forall x \in C^n , y \in C^m ) -- (10) ならば、 B = ^t \bar{A} proof) # (9) (Ax,y) = ^t(Ax) \bar{y} = ^t x ^t A \bar{y} = ^t \bar{^t A y} = ( x, ^t\bar{A} y ) よって、 ( A x, y ) = ( x, ^t A y ) # (10) ( A x, y ) = ( x, B y ) なので、(9) より (x, ^t\bar{A}y) = (x, By) よって、 (x,(^t\bar{A}-B)y ) = 0 ここで、 x = (^t \bar{A} B ) y とすると ((^t\bar{A}-B)y ,(^t\bar{A}-B)y ) = 0 よって、 (^t\bar{A}-B)y = 0 よって、y に順番に e_i を代入すれば、^t\bar{A}-B の i 列目がでるが、それがいずれも 0 なので、元の行列は0 すなわち ^t\bar{A} = B [定義] ^t\bar{A} を A の随伴(アジョント) 行列と呼び A^* で表す。 [定理] (A^*)^* = A (A+B)^* = A^* + B^* (cA)^* = \bar{c}A^* (AB)^* = B^* A^* [定義] A が正方行列で、 A = A^* を満す時、 A はエルミート行列 と呼ぶ <=> (Ax,y) = (x,Ay) 特に、 実エルミート行列を、実対称行列と呼ぶ ここで、 A = ( a_ij ) とすると、 A^* = ( \bar{a_ji} ) よって、 a_ij = \bar{a_ji} 特に、 a_ii = \bar{a_ii} なので、 対角成分は、全て、実 [定義] A が正方行列で、 A A^* = E を満す時、 A はユニタリ行列 と呼ぶ 特に実ユニタリ行列を直交行列と呼ぶ [定理] A : ユニタリ => A : 正則、A^{-1} = A^* proof) 定義より明らか A, B : ユニタリ => AB : ユンタリ proof) (AB)^*(AB) = B^* A^* A B = B^* B = E [定理] A : ユニタリ => A^{-1} = A^* もユニタリ proof) (A^*)^* A^* = A A^* = E # ユニタリ行列は、実は「群」になる ( 代数学入門 (2) か、代数学 (3) で学ぶ )