代数幾何 I 古津先生 (2006/11/09) # [前回] 行列式を定義するための準備 => 今回は、行列式の話 # 最初は、「多項式」の行列式 [定義] n^2 個数のの変数 x_{i,j} ( i,j = 1,.., n ) の多項式 \sum_{\sigma \in S_n} sgn\sigma x_{1\sigam{1}} x_{2\sigam{2}} .. x_{n\sigam{n}} ... (1) を考え、これを、「n 次の行列式(determinant)」と呼び、 | x11 x12 .. x1n | | x21 x22 .. x2n | | .. | | xn1 xn2 .. xnn | で表す。 # これは n 次の斉次多項式になる [例] [n = 1 の時] | x_11 | = \sum_{\sigma \in S_1} sgn\sigma x_{1\sigam{1}} ここで、S_1 = { 1_1 } = { ( 1 ) } と要素が一つしかない。 1 sgn 1_1 = +1 より、 | x_11 | = x_11 となる。 [n = 2 の時] | x_11 x_12 | = \sum_{\sigma \in S_2} sgn\sigma x_{1\sigam{1}}x_{2\sigam{2}} | x_21 x_22 | ここで、S_2 = { \sigam_1, \sigma_2 } と要素は二つ \sigma_1 = 1_2 恒等置換 \sigma_2 = ( 1 2 ) 互換 よって、 | x_11 x_12 | = x_11 x_22 - x_12 x_21 | x_21 x_22 | となる。 [n = 3 の時] | x_11 x_12 x_13 | | x_21 x_22 x_23 | | x_31 x_32 x_33 | = \sum_{\sigma \in S_2} sgn\sigma x_{1\sigam{1}}x_{2\sigam{2}}x_{3\sigam{3}} ここで、S_3 = { \sigam_1, \sigma_2, .., \sigma_n } \sigma_1 = 1_3 \sigma_2 = ( 1 2 3 ) 2 3 1 \sigma_3 = ( 1 2 3 ) 3 1 2 \sigma_4 = ( 1 2 ) \sigma_5 = ( 1 3 ) \sigma_6 = ( 2 3 ) よって、 | x_11 x_12 x_13 | | x_21 x_22 x_23 | | x_31 x_32 x_33 | = x_11 x_22 x_33 + x_12 x_23 x_31 + x_13 x_21 x_32 - # これらの結果は、これまでの定義の結果と一致する # これまでは n = 1, 2, 3 の場合だけであるが、この定義は、一般の n で利用できる # n = 4 以降は、たすきがけでは大変なので、別の計算方法を考える (基本変形) [定義] (行列の行列式) n 次正方行列 A=(a_ij) に対して、(1) の x_ij に a_ij に代入したもの \sum_{\sigma \in S_n} sgn\sigma a_{1\sigam{1}} a_{2\sigam{2}} .. a_{n\sigam{n}} ... (2) # \sigma は置換なので、(2) の要素には必ず、全ての行、列のうちから唯一つの要素がそれぞれ取り出されることに注意 を 「A の行列式」と呼び、 | a11 a12 .. a1n | | a21 a22 .. a2n | | .. | | an1 an2 .. ann | |A| det A det (a_1, a_2, .., a_n ) ( ただし、A = (a_1,a_2,..,a_n) の時 ) などと表す。 [例 1] 対角行列 A の行列式 | a_11 0 0 .. 0 | |A| = | 0 a_22 0 .. 0 | | .. | | 0 0 ... a_nn | を考えると、 1 列から 1 行目の要素 a_11 を取らない項目は 1 行目の要素が 0 2 列から 2 行目の要素 a_22 を取らない項目は 2 行目の要素が 0 .. n 列から n 行目の要素 a_nn を取らない項目は n 行目の要素が 0 となるので、それぞれ、積は 0 になる。 ただし、 a_11 a_22 .. a_nn の項目のみが ( 0 でないので.. ) 残ることになる。 これの係数 \sigma は、恒等置換になるので、sig\sigma = +1 となるので、 |A| = a_11 a_22 .. a_nn となる。 特に、 |E| = 1 |O| = 0 に注意。 [例 2] |A| の一つの行/列が全て 0 ならば |A| = 0 proof) |A| = \sum_{\sigma \in S_n} sgn\sigma a_{1\sigam{1}} a_{2\sigam{2}} .. a_{n\sigam{n}} [i行目が0 の場合] これの任意の要素の i 番目の要素は 0 \forall i a_{i\sigam{i}} = 0 なので、全体も 0 [j列目が0 の場合] これの任意の要素の \sigam{j} 番目の要素は 0 \forall i \exist j a_{i\sigam{i}} = a_{ij} = 0 なので、全体も 0 [例 3] |cA| = c^n|A| proof) A = (a_ij) とすると、cA = (c a_ij) である。 よって、 |cA| = \sum_{\sigma \in S_n} sgn\sigma c a_{1\sigam{1}} c a_{2\sigam{2}} .. c a_{n\sigam{n}} = c^n \sum_{\sigma \in S_n} sgn\sigma a_{1\sigam{1}} a_{2\sigam{2}} .. c a_{n\sigam{n}} = c^n |A| 問 イ) ( 逆対角 ) | 0 0 a_1 | |A| = | 0 a_2 0 | | 0 .... | | a_n .... 0 0 | の時、 |A| = sgn \sigma a_1 a_2 .. a_n ただし、 \sigma = ( 1 2 .. n ) n n-1 .. 1 この時、sgn\sigma は前回の講義で sgn\sigma = (-1)^m ( n = 2m, あるいは n = 2m+1 ) であることは学んだので、 |A| = (-1)^m a_1 a_2 .. a_n ( n = 2m, あるいは n = 2m+1 ) となる。 問 ロ) | a b c | | c a b | = a^3 + b^3 + c^3 - 3 abc | b c a | # 二次、三次は定義通りでも、公式でもよい。 [定理 2.1] |^t A| = |A| # 行列式は、転置しても変らない !! proof) |A| = \sum_{\sigma \in S_n} sgn\sigma a_{1\sigam{1}} a_{2\sigam{2}} .. a_{n\sigam{n}} ところが、\sigma が S_n の中を全て動く場合は、\sigama^{-1} も S_n の中を全部動く ( [1.2] イ ) ので、 = \sum_{\sigma^{-1} \in S_n} sgn\sigma^{-1} a_{1\sigam^{-1}{1}} a_{2\sigam^{-1}{2}} .. a_{n\sigam^{-1}{n}} となる ( 総和の順番を変ただけ )。 ところが、 \sigma^{-1} = ( 1 2 .. n ) \sigma^{-1}(1) \sigma^{-1}(1) .. \sigma^{-1}(n) = ( \sigma(1) \sigma(1) .. \sigma(n) ) 1 2 .. n また、 sgn\sigma^{-1} = sgn\sigma なので、 |A| = \sum_{\sigma \in S_n} sgn\sigma a_{\sigam{1}1} a_{\sigam{2}2} .. a_{n\sigam{n}} これは、a_ij の i と j を交換した結果になっているので、 = |^tA| # よって、行列式に関する性質は、行について成立することは、全て列でも成立する [定理 2.2] ( n 重線型性 ) イ) det ( a_1, a_2, .., a_j + a_j', .. , a_n ) = det ( a_1, a_2, .., a_j, .. , a_n ) + det ( a_1, a_2, .., a_j', .. , a_n ) # 列の和は外にだせる ロ) det ( a_1, a_2, .., c a_j, .. , a_n ) = c det ( a_1, a_2, .., a_j, .. , a_n ) # 列の定数倍は外にだせる proof) [イ)] |A| = det ( a_1, a_2, .., a_j + a_j', .. , a_n ) |A'| = det ( a_1, a_2, .., a_j, .. , a_n ) |A''| = det ( a_1, a_2, .., a_j', .. , a_n ) |A| = |^tA| = |B| とすると、 |A| = \sum_{\sigma \in S_n} sgn\sigma b_{1\sigma{1}} b_{2\sigma{2}} .. (b_j\sigma{j}+b+j\sigma{j}')b_{n\sigma{n}} = \sum_{\sigma \in S_n} sgn\sigma b_{1\sigma{1}} b_{2\sigma{2}} .. (b_j\sigma{j})b_{n\sigma{n}} + \sum_{\sigma \in S_n} sgn\sigma b_{1\sigma{1}} b_{2\sigma{2}} .. (b_j\sigma{j}')b_{n\sigma{n}} = |A'| + |A''| [ロ)] |A'| = |tA'| = |B| とすると、 = \sum_{\sigma \in S_n} sgn\sigma b_{1\sigma{1}} b_{2\sigma{2}} .. (c b_j\sigma{j})b_{n\sigma{n}} = c\sum_{\sigma \in S_n} sgn\sigma b_{1\sigma{1}} b_{2\sigma{2}} .. b_j\sigma{j}b_{n\sigma{n}} = c|B| = c|^tA| = c|A| # 表記するには、行の方が良いのだが、計算するときには、列の方がよいので、計算する時には、転置をとって計算するとよい。 [定理 2.3] (交替性) \tau \in S_n とする。 この時、 det( a_{\tau{1}} a_{\tau{2}} .. a_{\tau{n}} ) = sgn\tau det(a_1, .., a_n) となる。 proof) det( a_{\tau{1}} a_{\tau{2}} .. a_{\tau{n}} ) = \sum_{\sigma \in S_n} sgn\sigma a_{1\tau\sigma{1}} a_{2\tau\sigma{2}} ..a_{n\tau\sigma{n}} ここで、 a_1j が a_{1\tau(j)} に写るので a_1\sigma が a_{1\tau\sigma(1)} となる。 更に、 sgn \sigma = sgn \tau sgn(\tau\sigma) なので、 = sgn \tau \sum_{\sigma \in S_n} sgn\sigma a_{1\tau\sigma{1}} a_{2\tau\sigma{2}} ..a_{n\tau\sigma{n}} \sigma が S_n の全ての要素を動かすと \tau\sigma も S_n の全ての要素を動くの ( [1.2] のロ) ) で、これは、 = sgn\tau |A| となる。 [系 2.4] A の二つの行/列 が同じならば |A| = 0 proof) A = ( a_1, .., a_n ) で a_i = a_j とする。 \tau = ( i, j ) とすれば、 |A| = det( a_1, a_i, .., a_j, .., a_n ) = det( a_1, a_j, .., a_i, .., a_n ) = det( a_{\tau(1)}, a_{\tau(i)}, .., a_{\tau(j)}, .., a_\tau{n)} ) = sgn\tau |A| = - |A| よって、 |A| = -|A| [系 2.4] A のある行/列に他のある行/列の定数倍を加えて得られる行列の行列式は元の|A| に等しい proof) det(a_1, .., a_i + c a_j,.., a_j, .., a_n ) = det(a_1, .., a_i,.., a_j, .., a_n ) + det(a_1, .., ca_j,.., a_j, .., a_n ) = |A| + c det(a_1, .., a_j,.., a_j, .., a_n ) = |A| + c 0 = |A| # これらの定理と系より、基本変形を利用した行列式の計算が可能になる !! | P(i,j) A | = - |A| | A P(i,j) | = - |A| | Q(i;c) A | = c |A| | A Q(i;c) | = c |A| | R(i,j;c) A | = |A| | A R(i,j;c) | = |A| # これらの性質を利用すると、基本変形を利用して、|A| の形を簡単な形 ( 例えば、対角行列に変形する.. ) にして、計算することが可能になる。 ## これに関しては、次回以降行う。