代数幾何 I 古津先生 (2006/05/10) # 今日から、多項式。二回か三回で終る予定 [多項式] 例: 2 + 3x - x^3 ( ここで現れる変数は x なので x の一変数多項式の例 ) = 2 + 3x + 0x^2 - x^3 ( 0 の項は省略するのが普通 ) 2 +3 0 -1 ( 各々の項目の数値部分が、「係数」 ) x の一変数多項式の集合を考える ( 係数の範囲で分類する ) x の 整数 係数多項式全体の集合 Z[x] 有理数 Q[x] 実数 R[x] 複素数 C[x] # 係数集合に拘らない場合は K[x] などとかくことがある # Z だけ除きたい場合は、K[x] ( K \ne Z ) などとする 多項式の集合で定義される演算 「和」, 「差」, 「積」 は普通に定義 その他に、「合成」もある 例: f(x) = (x-5)^2, g(x) = x^2+x+3 のとき f と g の合成 f(g(x)) = (g(x)-5)^2 = (x^2+x-2)^2 [定義] 次数 f(x) = a_0 + a_1 x^1 + .. + a_n x^n ( a_n \ne 0 ) の時、 f(x) は n 次式 と呼び、 deg f(x) = n で表す。 # 注意 f(x) = 0 は除いて考える [例] f(x) = a_0 ( \ne 0 ) の時、 deg f(x) = 0 [定理] deg ( f(x) \pm g(x) ) \le max{ deg f(x), deg g(x) } deg ( f(x) g(x) ) = deg(f(x)) + deg(g(x)) # 四則には、もう一つ「商」がある # 「商」はどうするか ? # 一般に、多項式同志では、わりきれない事が多い # この場合の対応方法は二つ # a) 整数と同様、余りを考える # b) 有理数同様、分数を考える # b は結構大変なので、今回は話さない。 # 以下、a の話をする。 [定義] f(x), g(x) \in K[x] に対して f(x) = g(x) q(x) となる g(x) \in K[x] が存在するとき f(x) は g(x) で割切れる f(x) は g(x) の倍数 # 倍元という呼び方もある # 多項式だが「数」と呼ぶことに注意 !! と言い、逆に g(x) は f(x) を割切る g(x) は f(x) の約数 と呼ぶ。 また、この時に、 g(x) | f(x) とも書く。 [例] f(x) = x^2-4 g(x) = 2x-4 の時、 x^2-4 = (2x-4)(\frac{1}{2}x+1) となる。 この場合、 Q[x], R[x], C[x] では、f(x) は g(x) で割切れる しかし、 Z[x] では割切れない # (\frac{1}{2}x+1) は Z[x] の元ではないので # もし、Z[x] の中で割切れるならば、その元は Q[x] にもあるはずだが、f(x) を g(x) で割った結果は上記の (\frac{1}{2}x+1) だけなので、そんなことはありえない #!! 「割切れるかどうか」は、考えている集合 ( 係数 ) によって、異る !! 以下の議論では、K \ne Z で考える。 [定理] a \in K, a \ne 0 とすると a | f(x), (a f(x)) | f(x) ∵ f(x) = a ( \frac{1}{a} f(x) ) よって、 f(x) = (a f(x)) ・ \frac{1}{a} # この二つの形の約数 ( 自明な約数 ) は常にある [定義] f(x)が a, ( a f(x) ) 以外の約数を持たないとき 既約 そうでない時 可約 という。 [例] x^2 + 1 は R[x] では既約 # この式は二次式なので、もし、自明でない約数があるとしたら一次式 # つまり、これを二次方程式の左辺 ( 右辺は 0 ) と考えて、二次方程式を解くと、その解は、複素数なので、約数となる一次式は存在しない x^2 + 1 = (x-i)(x+i) なので、C[x] では可約になる #!! 既約かどうかも、係数によって、異る。 [定理] g(x) | f(x), h(x) | g(x) => h(x) | f(x) h(x) | f(x), h(x) | g(x) => h(x) | { f(x)u(x) + g(x)v(x) } \forall u(x), v(x) # 証明は略 # 割切れる場合は、これまでの数と同様に考えてよいが、割切れない場合を考える # ここでは、「余り」を考える立場 ( 整数と同じ考えかた ) を取ることにする。 ## 以下、同様に K \ne Z で考える 定理 ( 余りが、一つだけ存在するという定理 ) f(x), g(x) \in K[x], g(x) \ne 0 ならば f(x) = g(x)q(x) + r(x) ... (※) となる q(x), r(x) の組が、一組だけある。 ただし、 deg r(x) = 0 又は deg r(x) < deg g(x) とする。 # [注意] 最後の条件を与えないと、(※)を満す q, r は沢山ある # r の次数に関する条件をつけて、初めて一組に固定される。 # 「q, r の組が一組しかない」ということを数学では「q, r は一意 # である」と呼ぶこれを「一意性」と呼ぶ。数学では「一意性」の証 # 明はよくあるが、証明の方法はだいたいどれも同じで、 # 二つあったら # 実は同じ # 矛盾する # という形で示す。 [証明] (一意性の証明) # 背理法による 2 組 (q_1,r_1), (q_2,r_2) あったとする すると、 f(x) = g(x) q_1(x) + r_1(x) f(x) = g(x) q_2(x) + r_2(x) なので、(両辺を引いて整理すると..) g(x) {q_1(x) - q_2(x)} = r_1(x) - r_2(x) ここで、 q_1(x) - q_2(x) \ne 0 とすると、 左辺の次数は g(x) の次数以上 右辺の次数は g(x) の次数未満 すなわち、両辺で次数が合わない。これは矛盾。 # 一意性の証明は、だいたいパターンが同じ (存在の証明) # 存在と一意は、別々に証明することが多い # 存在の証明は、帰納法でやる # まず、0 の場合は特例なので、それだけを先にする f(x) = 0 の時は、q(x)=r(x)=0 とすれば良い # 以下は deg f に関する帰納法でやる ## 帰納法は、「最初にたおれる所」と「それ以後は連鎖する」の二点を示す方法 ## 「最初にたおれる所」はどこでももよい ( そこより後だけが証明される ) ## 普通は、1 から始めることが多いが、別にどこからでも良い ( 2 とか 3 とか. ) ## 今回は 0 から始める (i) deg f(x) = 0 deg g(x) = 0 なら f(x) = g(x) \frac{f(x)}{g(x)} + 0 q(x) = \frac{f(x)}{g(x)} r(x) = 0 とすればよい。 deg g(x) \ge 1 なら f(x) = g(x) 0 + f(x) q(x) = 0 r(x) = f(x) とすればよい。 # これで、最初のドミノがたおれた (ii) deg f(x)=n とし、n - 1 以下については、定理が成り立ったとする f(x) = a_0 + a_1 x + .. + a_n x^n g(x) = b_0 + b_1 x + .. + b_m x^m ( a_n, b_m \ne 0 ) とする。 deg f(x) < deg g(x) の時 f(x) = g(x)・0 + f(x) q(x) = 0 r(x) = f(x) とすればよい。 deg f(x) \ge deg g(x) の時 # とりあえず、割れるはずなので、一度割ってみる f_1(x) = f(x) - \frac{a_n}{b_m}x^{n-m}g(x) とすると、f(x) も \frac{a_n}{b_m}x^{n-m}g(x) も共に n 次式 しかも、n 次の項目の係数は a_n - \frac{a_n}{b_m}・b_m = 0 となる。 即ち、 deg f_1(x) \le n - 1 # つまり、一番次数の高い項を消して、次数を下げた # => 次数を下げることにより、帰納法の仮定が使える そこで、f_1(x) に定理を適用すれば、 f_1(x) = g(x) q_1(x) + r_1(x) r_1(x) = 0 or deg r_1(x) \lt deg q(x) よって、 f(x) = f_1(x) + \frac{a_n}{b_m}x^{n-m}g(x) = (g(x) q_1(x) + r_1(x))+ \frac{a_n}{b_m}x^{n-m}g(x) = g(x) { q_1(x) + \frac{a_n}{b_m} ) + r_1(x) なので、 q(x) = q_1(x) + \frac{a_n}{b_m} r(x) = r_1(x) とすればよい。 [定義] 上記の定理の q(x) を「整商」 r(x) を「余り」と呼ぶ # 有理数と同じように分数を作る場合の「商」もある # => 有理多項式 ( これは高学年でやる ) [定理] (剰余定理) f(x) を x - α で割った余りは、f(α) となる。 # この定理は、高校でやっている [公約数/公倍数] [定義] 公約数, 公倍数 は普通に定義 [定義] 最小公倍数, 最大公約数 次数の最も小さい公倍数を最小公約数と呼ぶ 次数の最も大きい公約数を最大公約数と呼ぶ # このようなものは「一意」だろうか ? 沢山ないだろうか ? その疑問に答えるのが次の定理 [定理] d(x) が、f_1(x), f_2(x), .., f_m(x) の最大公約数ならば f_1(x)u_1(x) + f_2(x)u_2(x) + .. + f_m(x)u_m(x) = d(x) となる、u_i(x) ( i = 1, .., m ) が存在する ( 一意とは限らない )。 [証明] # ちょっと、技術的な手法で、次のような集合 A を考える A = { \psi(x) \in K[x] | \psi(x) = f_1(x)u_1(x) + f_2(x)u_2(x) + .. + f_m(x)u_m(x), u_i(x) \in K[x] } そして、A の中で、もっとも次数の最低の多項式を \phi(x) とする。 すなわち、 \phi(x) = \sum_{j=1}^m f_j(x) u_j(x) とする。 そして、これで、f_i(x) を割る。 f_i(x) = \phi(x)q_i(x) + r_i(x) これより r_i(x) = f_i(x) - \phi(x)q_i(x) = f_i(x) - (\sum_{j=1}^m f_j(x) u_j(x))q_i(x) = f_i(x) { 1 - u_i(x)q_i(x) } - \sum_{j\ne i}^m f_j(x) u_j(x))q_i(x) これは、A の形なので r_i(x) \in A ここで、r_i(x)=0 か deg r_i(x) < deg \phi(x) だが、後者は、\phi(x) の定義より有りえない。 r_i(x)=0 がいえる。 すなわち、 \phi(x) | f_i(x) よって、これは、任意の i について成立するので、 \phi(x) は f_1, .., f_m の公約数 よって、 def \phi(x) \le deg d(x) 一方、 d(x) | f_i(x) より、 d(x) | \phi(x) すなわち、 def \phi(x) \ge deg d(x) よって、 deg \phi(x) = deg d(x) すなわち、 \phi(x) = c d(x) よって、 d(x) = \frac{1}{c} \phi(x) = \sum_{j=1}^m f_j(x) (u_j(x) \frac{1}{c}) # これより、定理の証明は Okay # ただ、一意性は示せないが、次の性質はいえる。 [系] d_1(x), d_2(x) が共に、最大公約数とすると、 d_1(x) = \frac{1}{c_1} \phi{x} d_2(x) = \frac{1}{c_2} \phi{x} となるので、 d_1(x) = \frac{c_2}{c_1} d_2(x) となる。 # すなわち、最大公約数は一意とはならないが、違いは、定数倍だけしかない。 ## ので、殆んど一意 ( というか、deg の立場からは一意 ) # 「最大公約数」の定義を「もっとも次数が大きい」としたために、「どうやって求める」かがよくわからない # => その求める方法が、「ユークリッドの互除法」 ##「ユークリッドの互除法」は、「余りのあるの割り算」ができれば使えるので、整数の場合も、多項式の場合も利用できる !! ##「ユークリッドの互除法」は、来年も利用するので、今回、きちんと覚えるように!! == 今週は単語の意味は重要、証明は、それほど重要ではないが、来年度以後、同様な証明が なんどもでるので、今回、ついでに覚えておこう # 来週は「ユークリッドの互除法」