代数幾何 I 古津先生 (2007/05/24) # 多項式の話の残りとベクトル == [多変数多項式] # 多項式として重要なのは、前回やった、一変数多項式のユークリッドの互除法 # ただ、多変数多項式の定義のなかで、今回の講義に利用するものがあるので、これをやる [定義] 変数 x_1, x_2, .., x_n と a \in K, p_i \in Z ( p_i \ge 0 ) の時、 # p_j が 0 の時は、変数ごと省略される # p_j が 1 の時は、p_j だけを省略 a x_1^{p_1}x_2^{p_2}..x_n^{p_n} : n 変数単項式 a : 係数 p = p_1 + p_2 + .. + p_n : (総)次数 [例] 5xy^3z^2 (総)次数は 1 + 3 + 2 = 6 係数は 5 \sum_{(p_1,..,p_n)}a x_1^{p_1}x_2^{p_2}..x_n^{p_n} を n 変数多項式 # 割り算と商、余りも定義でき、最大公約数なども定義できるが、 # 互除法がつかえないのなどの面倒なことがあるので、ここではその話はしない ## 剰余定理は成立するが、そちらも省略 # 一般に、多項式の中の項の変数の次数は異ることが多いが、ここでは同じものだけを考える [定義] 各項の次数が同じことを「斉次」という [定義] n 変数多項式 f(x_1,..,x_n) が対称式とは 1 \le \forall i, j \le n に対して f(x_1,..,x_i,..,x_j,..,x_n) = f(x_1,..,x_j,..,x_i,..,x_n) を満すこと。 # すなわち、多項式の任意の二つの変数を入れ替えても、元の式にもどってしまう。 [例] (基本対称式) s_1 = x_1 + x_2 + .. + x_n ( _nC_1 項 1 次斉次 ) s_2 = x_1x_2 + x_1x_3 + .. + x_{n-1}x_n ( _nC_2 項 2 次斉次 ) # n 個から、2 個とって組合せる s_3 = x_1x_2x_3 + .. + x_{n-2}x_{n-1}x_n( _nC_3 項 3 次斉次 ) # n 個から、3 個とって組合せる ... s_n = x_1 x_2 .. x_n ( _nC_n 項 n 次斉次 ) # 具体例でやってみる これらは、どれも対称式であるが、特にこれらの s_1 〜 s_n を「基本対称式」と呼ぶ。 # なぜ、「基本対称式」と呼ぶかというと # [定理] 全ての対称式は、基本対称式で表現できる # が成立するから ( 証明は略 ) [定義] (交代式) 変数を交換すると符号が変る式 [例] (差積) # 差積は、交代式のもっとも単純なものだが、十分に複雑 Δ(x_1,..,x_n) = \Pi_{1 \le i < j \le n} (x_j-x_i) # この式は、一次式を _nC_2 だけ掛けているので _nC_2 次式 [証明] (一般的にやると大変なので、具体的な例 n = 7 ) でやる Δ(x_1,..,x_7) = (x_7-x_6)(x_7-x_5)(x_7-x_4)(x_7-x_3)(x_7-x_2)(x_7-x_1) (x_6-x_5)(x_6-x_4)(x_6-x_3)(x_6-x_2)(x_6-x_1) (x_5-x_4)(x_5-x_3)(x_5-x_2)(x_5-x_1) (x_4-x_3)(x_4-x_2)(x_4-x_1) (x_3-x_2)(x_3-x_1) (x_2-x_1) 本当に、交代式かどうかは、全ての場合に関して、i, j を入れ替えて、符号が かわるかどうかを示す必要があるが、これも面倒なので、3 と 6 だけでやる。 # 他の場合も同様 3 と 6 を入れ替えると、次の場所が変更される。 = (x_7-x_6)(x_7-x_5)(x_7-x_4)(x_7-x_3)(x_7-x_2)(x_7-x_1) 3 6 ^^^^^^^^(*2) ^^^^^^^^(*2') (x_6-x_5)(x_6-x_4)(x_6-x_3)(x_6-x_2)(x_6-x_1) 3 3 3 6 3 3 ^^^^^^^^^^^^^^(*3) ^^^^(*4) ^^^^^^^^^^^^^^^^^(*1) (x_5-x_4)(x_5-x_3)(x_5-x_2)(x_5-x_1) 6 ^^^^^(*3') (x_4-x_3)(x_4-x_2)(x_4-x_1) 6 ^^^^^(*3') (x_3-x_2)(x_3-x_1) 6 6 ^^^^^^^^^^^^^^^^^(*1') (x_2-x_1) (*1) と (*1') は位置を変ただけ (*2) と (*2') も位置を変ただけ (*3) と (*3') は位置と符号が変るが、同じ個数なので符号は結局 + で変らない (*4) だけは孤立していて、符号が変るので、全体としては - になる # この関係は一般的にいえる [定理] 全ての交代式は、差積と対称式の積になる ( したがって、全ての交代式は、差積の次数以上の次数を持つ ) == # 今日から、Text の第一章に入る ( ほとんど高校の時の復習 ) # 大学なので、将来は、もっとややっこしいベクトルの話をするが、最初は簡単な平面ベクトル [平面ベクトル/空間ベクトル] [定義] (平面ベクトル) 平面の 2 点 P, Q が与えられた時、 P から Q に結んだ矢印を平面ベクトル \vec{PQ} と呼ぶ ベクトルには方向と長さがある 長さだけを持つ数は、スカラーと呼ぶ ( 普通の数 ) [定義] ( 0 ベクトル ) PとQ が同一の場合、長さが 0 になる。この場合、方向は決らないので、 方向はない 方向はいずれでもよい と考える。 これを \vec{0} で表す、零ベクトルと呼ぶ # 0 ベクトルは方向に関して特別なので、他のベクトルと区別して扱うことが多い [定義] ベクトル空間 V^2 : 平面 ( V^3 : 空間 ) ベクトル全体の集合 ベクトル空間では、スカラー倍 ( 今は、実数、将来は複素数も考える ) や和が定義される。 # ベクトルに様々な性質にかんしては、高校でやっているはずなので、省略 # Text にも書いてある [定義] ベクトルの成分 P=O ( 原点 ) とすると終点 Q の座標 (x,y) ( 空間の場合 ( x, y, z ) ) を、 ベクトルの成分と呼ぶ。 # 高校までは、成分を横にならべたが、大学では、縦に並べる \vec{OQ} を 点 Q の位置ベクトルと呼ぶ V^n ------------> R^n : ( n = 2 の時平面、3 の時空間 ) \in \in \vec{a} || |-------> (x,y,z) x ( y ) z ベクトル 点 という対応を考えると、これは 1 対 1 で上への対応になっている [定義] (単位ベクトル) e_1 = ( 1 ), e_2 = ( 0 ) : 平面の単位ベクトル 0 1 e_1 = ( 1 ), e_2 = ( 0 ), e_3 = ( 0 ) : 空間の単位ベクトル 0 1 0 0 0 1 [定理] (単位ベクトルによる制限) V^n の任意のベクトルは、単位ベクトルの線型和で表せる x \vec{a} = ( y ) = x e_1 + y e_2 + z e_3 z # 次の定義は、色々な所で利用するので重要 !! ## 表現が色々あるので注意 [定義] (平面ベクトル) 2 つのベクトル \vec{a} \vec{b} が同一直線上の矢印で表現できない場合 それらは 線型独立 (一次独立) という # linear independ # この教科書では、「線型独立」と呼ぶが他では「一次独立」と呼ぶことが多い # この言葉は重要なので、二つとも一緒に覚えてしまうこと !! [定義] (空間ベクトル) 3 つのベクトル \vec{a} \vec{b} \vec{c} が同一平面上の矢印で表現できない場合 それらは 線型独立 (一次独立) という # 平面ベクトルでは、三つのベクトルをとると、それらは、必ず同一平面上にあるので、常に、独立にならない [定義] (線型従属) n 個数ベクトルが独立でないときは、従属であると言う。 [定理] n 個の中に一つでも 0 ベクトルを含む場合は、0 ベクトル [例] \vec{a} = \vec{OP} \vec{b} = \vec{OQ} \vec{c} = \vec{OR} としたとすると、 a,b,c が独立である ということは O, P, Q, R の 4 点が同一平面上にない ということを表す。 a, b, c のいずれかが 0 ベクトルということは、P,Q,R のいずれか が O であるということ。 すると、実質 3 点しかないので、必ず、同一平面上にあることになるから、 この三つの a, b, c は従属になってしまうことがわかる。 [定義] \vec{a}, \vec{b}, \vec{c} に対して x\vec{a} + y\vec{b} + z\vec{c} ( x, y, z \in R ) を、 \vec{a}, \vec{b}, \vec{c} の「線型(一次)結合」と呼ぶ。 [定理] a, b, c が一次独立ならば、\forall x \in V^3 が a,b,c の線型結合で一意に表現できる。 [定義] \vec{a} に対して ||\vec{a}|| # Text の形式 |\vec{a}| # 講義では面倒なので、こちらの形で で \vec{a} の「長さ」を表す。 特に、 \vec{a} = ( x ) y の時、 |\vec{a}| = \sqrt{x^2+y^2} となり、 x \vec{a} = ( y ) z の時、 |\vec{a}| = \sqrt{x^2+y^2+z^2} となる。 [定義] (交角) 二つのベクトルのなす角を二つのベクトルの交角と呼ぶ ( 0 \le \theta \le \pi ) [定義](内積) |b-a| = |a|^2 + |b|^2 - 2|a||b|\cos{\theta} # 余弦定理より これから |a||b|\cos{\theta} = \frac{1}{2}{|a|^2 + |b|^2 - |b-a|} となる。 この値を内積と呼び、 (a,b) や a・b で表す。 [定理] (a,a) = |a|^2 [定理] a = ( x ), b = ( u ) y v の時、 b - a = ( u - x ) v - y なので、 (a,b) = \frac{1}{2}{|a|^2 + |b|^2 - |b-a|} = .. = x u + y v 特に、 \cos{\theta} = \frac{(a,b)}{|a||b|} # ただし、a も b も 0 ベクトルでない場合を考える # 角度を考える時には、0 ベクトルは除外して考える [定理] a, b が直交する <=> (a,b) = 0 [定理] (シュワルツの不等式) # この定理は、他の形でも表現でき、その形だと証明は面倒 # ところが、今の形であれば、直観的に明らか |(a,b)| \le |a| |b| # 左辺は、右辺の \cos をかけたもので |\cos| \le 1 だから [定理] (三角不等式) # この定理も上で同様 |a+b| \le |a| + |b| # これは図示すれば明らか # 等号は、a と b が平行な時 # この二つの不等式は、色々な所ででてくるし、形によっては大変 [問] 1 ( 1 ) との交角が \frac{\pi}{6} -- (1) 1 1 ( 1 ) との交角が \frac{\pi}{4} -- (2) 4 長さが 1 のベクトルを求めよ -- (3) [答] x a = ( y ) z とする。 (3) より x^2 + y^2 + z^2 = 1 (1) より a + b + c = 1 ・ \sqrt{3} ・ \cos{\frac{\pi}{6}} = \frac{3}{2} (2) より a + b + 4c = 1 ・ \sqrt{18} ・ \cos{\frac{\pi}{4}} = 3 まず、(1),(2) より c = \frac{1}{2}, a + b = 1 これを、(3) に代入して a = \frac{2\pm\sqrt{2}}{4} # a が+の時は、b は−になる。 よって、答は二つで、 a = \frac{2\pm\sqrt{2}}{4} b = \frac{2\pm\sqrt{2}}{4} (符号同順) c = \frac{1}{2} となる。 [定理] (平行四辺形の面積) a, b を二辺とする平行四辺形の面積を S とすれば、 S = |a| |b| \sin{\theta} となる。 S^2 = |a|^2 |b|^2 \sin^2{\theta} = |a|^2 |b|^2 (1-\cos^2{\theta}) = |a|^2 |b|^2 - |a|^2 |b|^2\cos^2{\theta}) = |a|^2 |b|^2 - (a,b)^2 よって、 S = \sqrt{|a|^2 |b|^2 - (a,b)^2} 特に、 a = ( x ), b = ( u ) y v の時、 S = |(xu - yv)| となる。 # 三角形は、単に平行四辺形の半分なので 1/2 をつければよい == 次回は、平面ベクトルと平面図形の話をする、その後は、空間で、同様な話をする。