代数幾何 I 古津先生 (2006/06/07) # 今週から「線型変換」の話 # 今週は平面、来週は空間の話をするが、内容的には同じような感じ == 平面の線型変換 平面上の点 P (x,y) ( その位置ベクトルを v ) を原点を中心にαだけ、反時計周りに、回転した点を P'(x'y') ( その位置ベクトルを v' ) としたとき、このような操作を行う変換はどうなるか ? # 面倒なので、OP と x 軸がなす角を、θとしておく ( これはちょっと反則 ) v と v' の関係を考える 回転なので、長さは変らないはず |v| = |v'| = r よって、 x = r \cos{\thita} y = r \sin{\thita} x' = r \cos{\thita+\alpha} = r \cos{\thita}\cos{\alpha}-r\sin{\thita}\cos{\alpha} = \cos{\alpha} x - \sin{\alpha} y y' = r \sin{\thita+\alpha} = r \sin{\thita}\cos{\alpha}-r\cos{\thita}\sin{\alpha} = \sin{\alpha} x + \cos{\alpha} y よって、 ( x' ) = ( \cos{\alpha}x - \sin{\alpha} y ) y' \sin{\alpha}x + \cos{\alpha} y = ( \cos{\alpha} -\sin{\alpha} ) ( x ) \sin{\alpha} \cos{\alpha} y この行列 ( \cos{\alpha} -\sin{\alpha} ) \sin{\alpha} \cos{\alpha} を 角度\alpha だけ回転する、回転の行列と呼ぶ この行列を A で表せば、 v' = A v の形で、成分を記述しない形にかける # 実は、このようにベクトルと係数を分けて書くために、行列が考え # られ、この等式が成立するように、行列とベクトルの積が定義され # た。この定義は、もちろん、高校までで学んだ内容と同じである。 更に、P' を \beta だけ回転させる行列を B とし、その結果を P'' とする。 また、元の P を、\alpha + \beta だけ回転させる行列を C とすれば、 当然、結果が等しいので、 v'' = B v' = B(A v) = (BA)v = C v とならなければならない。そこで、この等式 BA = C となるように、行列 A, B の積を定義すればよい。 ( \cos{\alpha} -\sin{\alpha} ) ( \cos{\beta} -\sin{\alpha} ) \sin{\alpha} \cos{\alpha} \sin{\beta} \cos{\beta} = ( \cos{\alpha + \beta} -\sin{\alpha + \beta} ) \sin{\alpha + \beta} \cos{\alpha + \beta} # これが、行列の掛け算の本来の由来 これを一般にすると、 AB = ( a b ) ( p q ) c d r s = ( pa + qc pb + qd ) ra + sc rb + sd となる ( ように定める = 定義 !! )。 #!! 行列の積はきちんと計算できるように !!!! == 定理 (線型性) A(x+y) = Ax + Ay A(cx) = c Ax # 証明は略 ( 行列の積の定義からすぐにでる ) # この関係は、今年と来年の講義で、なんども嫌というほど出てくる == # 回転に限らず、行列をベクトルにかけることは、平面上の移動を意味する。 [例] ( 1 0 ) ( x ) = ( x ) 0 -1 y -y この行列は、x 軸に対して、線対称な点への移動になっている ( -1 0 ) ( x ) = ( -x ) 0 1 y y この行列は、y 軸に対して、線対称な点への移動になっている ( -1 0 ) ( x ) = ( -x ) 0 -1 y -y この行列は、原点に対する、点対称な点への移動になっている # これは、原点に関する 180 度の回転になっている # ただし、これは平面の場合だけで、空間の場合は、異る行列/移動になる == [注意!!] 行列の掛け算は交換できない つまり、 AB と BA が等しく *ない* ことがある # AB が BA にならない場合があるのに、すぐに、AB を BA に書き換える人が毎年沢山いる。止めてほしい [例] A = ( 0 -1 ) : 角度 \pi/2 の回転の行列 1 0 B = ( 1 0 ) 0 -1 を考えると、 AB = ( 0 1 ) 1 0 なので、これは、 y = x に線対称な移動 BA = ( 0 -1 ) -1 0 は、y = -x に対する対称な移動 よって、 AB \ne BA である。 # AB と BA が違うの普通。同じになることは稀。もし、交換したけ # れば、交換可能であることを確認する。 == # 「線型性」は、写像としての用語なので、写像の言葉を定義しておく [定義] 行列 A に対応し、変換 T_A を T_A x = A x と定める。 # T_A は写像だが、特に、定義域と値域が同じ ( V^2 ) なので、このように定義域と値域が同じ写像を変換と呼ぶ この時、 T_A(x+y) = T_A(x) + T_A(y) T_A(c x) = c T_A(x) が成立する ( 上の話と同じ ) [定義] (一次/線型 変換) 一般に、V^2 の変換 T が T(x+y) = T(x) + T(y) T(c x) = c T(x) を満すとき、 T を V^2 の線型(一次) 変換 ( linear transfer ) という [定理 (*)] T_A は線型変換 # 定義より明らか [定理] T, S : 線型変換 => T と S の合成 S・T も線型変換 # このように線型変換であることを示す証明は、どれもワンパターンなので、今回の例をみて、良くおぼえる [証明] S・T ( x + y ) = S ( T ( x + y ) ) = S ( T x + T y ) = S ( T x ) + S ( T y ) = S・T(x) + S・T(y) よって、線型性の一つ目の条件を満す。 S・T ( c x ) = S ( T ( c x ) ) = S ( c T ( x ) ) = c S ( T x ) = c S・T(x) よって、線型性の二つ目の条件を満す。 よって、S・T は線型性を持つので、線型変換 # [定理 (*)] は実は、逆も成立する。 [定理 (**)] \forall T : V^2 の線型変換, \exist A : 行列 s.t. T = T_A # これは、以後、行列を求める手法になるので、この証明を覚えて、 # 具体的な行列の成分を求める時に利用する !! [証明] e_1, e_2 を V^2 の単位ベクトルとし、 T e_1 = ( a ) c T e_2 = ( b ) d とする。 一方、v = ( x ) \in V^2 とすると、 y v = x e_1 + y e_2 とできる。 したがって、 T v = T ( x e_1 + y e_2 ) = x T ( e_1 ) + y T ( e_2 ) = x ( a ) + y ( b ) c d = ( ax + by ) cx + dy = ( a b ) ( x ) c d y ここで、 A = ( a b ) c d とすれば、 = A v = T_A ( v ) これが、V^2 の全ての v について成立するので、 T = T_A # 「線型変換が同じ」ということは、「全 # ての要素に対して結果が同じ」というこ # と (定義) # これは、与えられた、線型変換に対して、それに対応する行列を求 # める方法になっている。 変換 T に対応する行列 A の求め方は、 A = ( T(e_1) T(e_2) ) とすればよい。 # つまり、次のような対応関係がある { V^2 の線型変換 } <-----------> { ( a b ) | 行列 } c d \in \in T_A <----------------------| A (定理 *) || T ------------------------> A (定理 **) 逆対応 # この対応は、1 to 1, onto すなわち、全単射 問 2 T_B ・ T_A = T_{BA} (証明) T_B ・ T_A (x) = T_B ( T_A (x) ) = T_B ( Ax ) = B(Ax) = (BA)x = T_{BA} (x) == [定義] (正射影) a \in V^2 ( \ne 0 ) を取る x \in V^2 に対して、a に平行なベクトル x' で、 x-x' が a と直交するベクトル x' が唯一つ存在する。 この x' を x の a への「正射影」と呼ぶ また、変換 T x = x' を、V^2 の a への「射影子」と呼ぶ # x' は、a と平行 # x' の長さは x の長さに比例 # 射影子の具体的な成分を求めてみる # 実は、前回やった、直線と点の距離と同じような結果になる 条件は、 x' = t a # x' は a に平行 (x-x',a) = 0 # x'-x は a に垂直 となる。 上を、下に代入して整理し、t を求めると、 (x-ta,a) = 0 より、 t = \frac{(a,x)}{(a,a)} よって、 x' = \frac{(a,x)}{(a,a)} a すなわち、 T x = \frac{(a,x)}{(a,a)} a ちなみに、これは線型変換になっている # 普通に証明してもよい (上記参照) し、内積が線型性を持つことを利用してもよい [問 1] v = ( a ), a^2+b^2 = 1 ( <=> |a| = 1 ) b とするとき、v への射影子 T の行列 A を求める。 [解] e_1, e_2 を V^2 の単位ベクトルとすると、 T e_1 = \frac{(a,e_1)}{(a,a)} a = \frac{a}{a^2+b^2} ( a ) b = ( a^2 ) ab T e_2 = \frac{(a,e_2)}{(a,a)} a = \frac{b}{a^2+b^2} ( a ) b = ( ab ) b^2 よって、 A = ( a^2 ab ) ab b^2 # 「A = (Te_1 Te_2)」 を使った [問 2] u, v \in V^2 ( \ne 0 ), (a,b) = 0 T, S : u, v への射影子 この時、 イ) T^2 = T, S^2 = S [証明] T^2(x) = T ( T ( x ) ) = T( \frac{(u,x)}{(u,u)}u ) = \frac{(u,\frac{(u,x)}{(u,u)}u)}{(u,u)}u = \frac{(u,x)}{(u,u)}\frac{(u,u)}{(u,u)}u = \frac{(u,x)}{(u,u)}u = T ( x ) # S も同様 # (直観的な説明)射影は、与えられたベクトルへ垂線を下すことに相当するが、一旦、下した点は、既に、ベクトル上のあるので、その垂線の足は変らない ロ) TS = ST = O # ただし、零変換 O は、O(x) = 0 ( \forall x \in V^2 ) となる変換 ( 全てのベクトルを 0 ベクトルに変換する ) と定義する [証明] TS (z) = T(S(z)) = T( \frac{(u,z)}{(u,u)}u ) = \frac{(v,u)}{(v,v)}v = \frac{(u,z)}{(u,u)}\frac{(v,u)}{(v,v)}v ここで、(v,u) = 0 なので、 = 0 # (直観的な説明)射影は、与えられたベクトルへ垂線を下すことに相当するが、直交するベクトル上で、それぞれ変換を行えば、どちらから先にしても原点にいってしまう。 ハ) Tx + Sx = x [証明] u, v は互い直交する、0 でないベクトルなので、独立 よって、任意の x に対して x = p u + q v とできる。 一方、 T(u) = u T(v) = 0 S(u) = 0 S(v) = v であることにきをつければ、 T ( x ) + S ( x ) = T( pu+qv ) + S( pu+qv ) = pT(u)+qT(v) + pS(u)+qS(v) = pu + q0 + p0 + qv = pu + qv = x == [例] 点 P を、 y = \tan{\alpha} x に線対称な点 P' に移動する変換を考える [解] P と x 軸で対称な点を P'' とすれば、 P -> P'' ( x 軸に対する対称 ) P'' -> P' ( 角度 2\alpha だけ回転 ) よって、行列は、 ( \cos{\2\alpha} == 次回は、今回の話題をもう一度、三次元の場合にやってみる。ほとんど同じだが、射影子の部分が ちょっとややっこしい。