代数幾何 I 古津先生 (2006/10/11) 本日の内容は、「基本変形」の話 これはとっても重要で、これからずっと利用する 今回 : 階数(ランク)の計算 次回 : 逆行列の計算 暫くたって : 連立一次方程式 後半 : 行列式 後期の内容は、ほとんど基本変形を利用するので、これができないと、ほとんど全滅 => きちんと身に付けておくこと !!! == [定義] 基本変形とは ? 「基本行列をかける」こと # これは、ほとんど定義になっていない、なぜなら、「基本行列」が定義されていないから 基本行列は、 三つ あり、かける方向が 左と右 によって異なるので 3 x 2 = 6 通り ある [定義] 基本行列 (三つあった) 1) Pn(i,j) : n 次正方行列で、 i\ne j # 以下、基本行列は、全て、正方行列であることに注意 i, j 行(列) 以外は、n 次の単位行列と同じ (殆ど単位行列) i, j 行(列) 単位行列に対して i, j 行(列) が交換されている 左-1) Pn(i,j) を左からかける i 行と j 行が入れ替わる。 右-1) Pn(i,j) を右からかける i 列と j 列が入れ替わる。 [注意] 入れ換えを二度すれば元に戻るので、Pn(i,j) の逆行列は自分自身である。すなわち、 Pn(i,j)^{-1} = Pn(i,j) 2) Qn(i;c) : n 次正方行列で、 c \ne 0 ( \in C ) i,i 要素以外は、n 次の単位行列と同じ (殆ど単位行列) i,i 要素が c 左-1) Qn(i;c) を左からかける i 行が c 倍される 右-1) Qn(i;c) を右からかける i 列と c 倍される [注意] c 倍して1/c 倍すれば元に戻るので、 Qn(i;c)^{-1} = Qn(i;1/c) 3) Rn(i;c) : n 次正方行列で、 c \ne 0 ( \in C ), i\ne j # c = 0 でも良いが、その場合は、単位行列になるので、意味がない i,i 要素以外は、n 次の単位行列と同じ (殆ど単位行列) i,j 要素が c 左-1) Rn(i,j;c) を左からかける i 行に j 行の c 倍が加えられる 右-1) Rn(i,j;c) を右からかける j 列に i 列の c 倍が加えられる # <<注意>> i と j が入れ替わっていることに注意!! [注意] c 倍を加えて -c 倍を加えれば、元に戻るので、 Rn(i,j;c)^{-1} = Qn(i,j;-c) [注意] 全ての基本行列が、逆行列を持つので、どれも正則であることが解る !! [注意] 左からかけると行の操作 => 左基本変形 => 行に関する基本変形 右からかけると行の操作 => 右基本変形 => 列に関する基本変形 # 基本変形は色々あるので、その操作ができるできないとか、どのような場合に利用するかなどは、これから、その時々に説明する。 # 次の操作「掃出し」は非常によく利用する [定義] (掃出し) (p.q) を要として、 左から第 q 列 (右から第 p 行) を掃出す とは、 A = (a_ij) : (m,n) 型で、a_pq \ne 0 の時 に対して、次の操作を行なうことである。 1) p 行を 1/a_ij 倍する ( a_pq を 1 にする ) ( 左から Qm(p;1/a_pq) をかける ) 2) 第 i 行に第 p 行の -a_iq 倍を加える (\forall i\ne p) ( 左から Rm(i,p;-a_iq) をかける ) # q 列を掃き出す (a_iq ( i\ne 0) を 0 にする) 結果として、q 列目は、p 成分以外は、0 で、p 成分は 1 となる => また、q 列以外の要素も殆どの場合変ってしまう このような q 列を作ることを「q 列の掃き出し」と呼ぶ # 同様にして、行を掃き出すことも考える 3) 第 j 列に第 q 列の -a_pj' 倍を加える (\forall j\ne q) ( 右から Rm(q,j;-a_pj') をかける ) 結果として、p 行目は、q 成分以外は、0 となる => この場合は、p 行以外の要素は変化しない # ので実際には、無条件に 0 にしてもよい # 実際に「掃き出せる」ようにしておく !!! == [定理 4.1] A : n 次正則 \exist X : n 次 s.t. XA = E => A : 正則 # 定義は、XA=AX=E なのだが一方だけでよい ## これは、以前「後で証明すると」といってあったが、それが「今」 # こいつの証明を上記の基本変形を利用して証明する (証明) 帰納法による n=1 の時を示す A=(a_11) とし、\exist X=(x_11) が存在して s.t. AX = E_1 = (1) である ( 成分は一個しかない )。 すなわち、 a_11 x_11 = 1 である。よって、 x_11 a_11 = 1 である。したがって、 AX=E_1 となる。 n-1 まで成立しているとして n の時を示す A は正則なので零行列ではない すなわち、a_ij \ne 0 となる成分がある。 必要に応じて、行、列の交換を行って、この成分を 1,1 成分とする 次に、1,1 成分を利用して、行と列を掃き出すと、次のような行列 B になる。 B = ( 1 | 0 .. 0 ) --+-------- 0 | ..| A_1 0 | # この場合 「A |---> B」 と表現する B = PAQ : P, Q は、基本行列をかけたもの : P, Q は、基本行列をかけたものだから正則 そこで、この P,Q を利用すると Q^{-1}XP^{-1} = ( u | ^tz ) ---+----- t | X_1 となる。 一方、 Q^{-1}XP^{-1}PAQ=E なので、 ( u | ^tz ) ( 1 | 0 ) = ( u | ^tzA_1 ) = E ---+----- ---+---- ---+-------- t | X_1 0 | A_1 y | X_1A_1 よって、 u = 1 X_1 A_1 = E ここで、帰納法の仮定より A_1 は正則 従って B が正則 となり、 A も正則 ということがわかる。 [定理 4.2] A: (m,n) 型は、基本変形を何回か施すことにより、次のような「標準形」に変形 できる # 基本変形により m,n 型は、m,n のまま F_m,n(r) : m,n 型の行列 1,1 から r,r 成分までの対角要素 1 で残りは、全て 0 更に、 r は A のみによる i.e. A |--> F(r), A |--> F(s) => r = s (証明) A が O 行列の時 A = O = F_m,n(0) なので、示せる。 A が O 行列でなければ、0 でない要素があるので、それを 1,1 成分にし、 1,1 を要に、行と列を掃き出す。 A |---> ( 1 | 0 .. 0 ) --+------- 0 | ..| A_1 0 | A_1 が、0 行列ならば、これは F_m,n(1) となり終り A_1 が O 行列でなければ、今度は、(2,2) 成分で掃き出す # 以下同様にくりかえす # 行列の要素の個数は有限なので、いつかこの操作は止る # この操作は、ランクの計算で利用する !! # 次に一意性 ( r = s ) を示す。 今、r <= s とする。 A |--> F(r), A |--> F(s) なので、 F(r) |--> F(s) よって、 F(s) = P F(r) Q とできる。(P,Q は正則であることに注意) 次に、P,Q を r までと、残りの二つに対称区分けする r m-r r n-r P = ( P_11 P_12 ) Q = ( Q_11 Q_12 ) P_21 P_22 Q_21 Q_22 これを代入すると、 F(s) = ( E_r | 0..0 ) -----+------ 0 | 1 (s-r 個) .. | 0 = ( P_11 P_12 )( E_r O ) ( Q_11 Q_12 ) P_21 P_22 O O Q_21 Q_22 = ( P_11 Q_11 P_11 Q_12 ) P_21 Q_11 P_21 Q_21 両辺を比較すると、 P_11 Q_11 = E_r => P_11, Q_11 は正則 P_21 Q_11 = O => P_21 = O P_11 Q_12 = O => Q_12 = O よって、 P_21 = Q_12 = P_21 Q_12 = O すなわち、 r = s [定義] 階数 前定理の r を A の階数(ランク)と呼び、 r = rank A = r(A) で表す。 [例1] A = ( 0 2 4 2 ) 1 2 3 1 -2 -1 0 1 ..... (基本変形を繰り返して..) |----> ( 1 0 0 0 ) = F_2,3(2) 0 1 0 0 0 0 0 0 よって、 rank A = 2 [定理 4.3] A : n 次 A が正則 <=> rank A = n (証明) \exist P,Q : 正則 s.t. PAQ = F(r) Fn,n(r) が正則であるための必要十分条件は r = n 一方、 F(r) が正則 であることに必要十分条件は A = P^{-1}F(r)Q^{-1} が正則 よって、A が正則である事の必要十分条件は rank A = n である [定理 4.4] A : 正則ならば、左(右)基本変形だけで、単位行列にできるし、逆も成立する (証明) (=>) \exist P,Q : 正則 s.t. PAQ = F(r) = F(n) = E これに左から Q 右から Q^{-1} かけると QPA = E となるので、左基本変形だけで単位行列にできた # 右も同様 (<=) PA = E => A は正則 ( ∵ [4.1] ) # この手続きを利用すれば、逆行列の求め方もすぐわかるが、それは来週に回す # この後、具体的な計算例だけやって今日は御仕舞い [例] A = ( 1 2 3 ) -2 -3 -4 2 2 4 .. ( これを左からの操作だけで基本変形をする ) |---> ( 1 0 0 ) = E 0 1 0 0 0 1 # 次回、この話の応用として、A の逆行列を求めることからはじめる # よって、次回も基本行列の話、次々回も連立方程式の話なので、やっぱり、基本変形