代数幾何 I 古津先生 (2006/10/18) 前回 基本変形をやった 基本行列 P,Q,R を 左からかける => 行の変形 右からかける => 列の変形 階数 PAQ = F(r) の時、r = rank A 今回 基本変形の次の応用 == [逆行列] A : n 次正則行列 一般に、 PAQ = F(r) となるが A が正則なので r = n すなわち、 PAQ = F(n) = E_n 更に、 QPA = E_n ともできるが、この形で、 QP = A^{-1} となることがわかる。 この性質を利用して、基本変形をして、A の逆行列を求めることにする。 [基本行列を利用した逆行列の求め方] 行列 A に対し、 (A|E) を考える。これを「行の基本変形」を利用して、 (E|B) の形にする。この時、B=A^{-1} となっている。 (proof) R(A|E) = (RA|RE) = (RA|R) = (E|B) よって、 R = B = A^{-1} [例] 1 2 3 A = ( -2 -3 -4 ) の逆行列を考える 2 2 4 1 2 3 1 0 0 (A|E) = ( -2 -3 -4 0 1 0 ) 2 2 4 0 0 1 R3(2,1;2) 1 2 3 1 0 0 --------> ( 0 1 2 2 1 0 ) R3(3,1;-2) 0 -2 -2 -2 0 1 R3(1,2;-2) 1 0 -1 -3 -2 0 --------> ( 0 1 2 2 1 0 ) R3(3,2;-2) 0 0 2 2 2 1 Q3(3;/1) 1 0 -1 -3 -2 0 --------> ( 0 1 2 2 1 0 ) 0 0 1 1 1 1/2 R3(1,3;1) 1 0 0 -2 -1 1/2 --------> ( 0 1 0 0 -1 -1 ) = (E|A^{-1}) R3(2,3;-2) 0 0 1 1 1 1/2 よって、 -2 -1 1/2 A^{-1} = ( 0 -1 -1 ) 1 1 1/2 # この方法は、3 次元だけでなく、一般の n 次元でできること !! # 練習しておくように !! ( 行の変形のみを利用すること !! ) # [注意] この作業そのものは、A が正則かどうかと関係なく行える。その代わ # りに、もし、A が正則でないと、途中で、かなめとなる要素がなくなる ( 縦 # に 0 がならぶことになる ) ので、その時点で、正則でないことが判定でき # る。 問 1 3 2 A = ( 2 3 6 ) の逆行列を考える -2 -5 -2 1 3 2 1 0 0 (A|E) = ( 2 3 6 0 1 0 ) -2 -5 -2 0 0 1 R3(2,1;-2) 1 3 2 1 0 0 --------> ( 0 0 -1 -2 1 0 ) R3(3,1;2) 0 1 2 2 0 1 P3(2,3) 1 3 2 1 0 0 --------> ( 0 1 2 2 0 1 ) 0 0 -1 -2 1 0 R3(1,2;-3) 1 0 -4 -5 0 -3 --------> ( 0 1 2 2 0 1 ) Q3(3;-1) 0 0 1 2 -1 0 R3(1,3;4) 1 0 0 3 -4 -3 --------> ( 0 1 0 -2 2 1 ) = (E|A^{-1}) R3(2,3;-2) 0 0 1 2 -1 0 よって、 3 -4 -3 A^{-1} = ( -2 2 1 ) 2 -1 0 # 基本変形の三つ目の応用は、連立方程式の解法 [一次方程式の解法] 一次方程式系 連立一次方程式で、 未知数 n 個 ( x_1,..,x_n ) 式 m 個 a_11 x_1 + a_12 x_2 + .. + a_1n x_n = c_1 (1) { a_21 x_1 + a_22 x_2 + .. + a_2n x_n = c_2 ... a_m1 x_1 + a_m2 x_2 + .. + a_mn x_n = c_m を考える。 これを行列を利用して表現する A = (a_ij) c = (c_i) x = (x_i) とすれば、 Ax = c となる。 また、A と c をまとめて記述して、 \~A = (A|c) と表すことができる(この\~A を拡大行列と呼ぶ)。 これをもちいれば、 \~x=(x) 0 を利用して、 Ax-c = 0 を、 \~A\~x = 0 と表現することもできる。 # 連立方程式が、行列をもちいて、表現できたので、 # この行列を基本変形をつかって、変形し、方程式を解く \~A を「行の基本変形」を利用して、簡単にする # [注意] 行の基本変形しても、元の方程式の意味を変ていないことに注意 # また、どうしても最後の列以外の「列の交換」が必要な場合がある # => その場合は、変数の入れ換えが必要 基本変形 n-r \~A --------------> \~B = ( | | d1 ) = (B|d) Er | * | .. | | dr ---+---+--- | | dr+1 0 | 0 | .. | | dm # これが、定理[5.1] の主張と証明 ここで、同じ基本変形を行うと、 A -> B で、 rank A = rank B = r このことから、 \~A\~x = 0 より、 \~B\~x = 0 これは、 x_1 + b_1{r+1} x_{r+1} + .. + b_1n x_n = d_1 x_2 + b_2{r+1} x_{r+1} + .. + b_2n x_n = d_2 .. x_r + b_r{r+1} x_{r+1} + .. + b_rn x_n = d_r 0= d_{r+1} .... 0= d_{m} を意味する。 この時、 i) d_{r+1} 〜 d_{m} で 0 でない場合は「不能」 # 大学では、「解なし」は、この「不能」の時のみ # cf. 高校では、次の「不定」の場合も「解なし」といってもよかったが、大学の場合は、この場合も「解あり」となるので注意 !!!! ii) d_{r+1} 〜 d_{m} が 0 の場合 x_1 = d_1 - b_1{r+1} x_{r+1} + .. + b_1n x_n x_2 = d_2 - b_2{r+1} x_{r+1} + .. + b_2n x_n .. x_r = d_n - b_r{r+1} x_{r+1} + .. + b_rn x_n となるので、x_{r+1} 〜 x_n に好きな値 ( α_{r+1} 〜 α_m ) を 代入しても、方程式の答になるので、答は、 x_1 = d_1 - b_1{r+1} α_{r+1} + .. + b_1n α_n x_2 = d_2 - b_2{r+1} α_{r+1} + .. + b_2n α_n .. x_r = d_n - b_r{r+1} α_{r+1} + .. + b_rn α_n x_{r+1} = α_{r+1} .. x_n = α_n となる。 これが、一般解。 # 高校ではこの場合は「解なし」としたが、大学では、きちんと「答」とする。 この一般解は、ベクトルをもちいて、 x_1 d_1 -b_1{r+1} x = ( x_2 ) = (d_2) + α_{r+1} (-b_2{r+1} ) + ... ... ... d_r. 1 0 0 ... ... x_n 0 0 [例] 3 x_2 + 3 x_3 - 2 x_4 = -4 x_1 + x_2 + 2 x_3 + 3 x_4 = 2 x_1 + 2 x_2 + 3 x_3 + 2 x_4 = 1 x_1 + 3 x_2 + 4 x_3 + 2 x_4 = -1 より、 0 3 3 -2 -4 \~A = ( 1 1 2 3 2 ) 1 2 3 2 1 1 3 4 2 -1 [注意] 途中で、3, 4 列を交換するので、最後の結果を示す場合は、 x_3 と x_4 を交換する必要がある。 1 2 4 3 1 0 0 1 7 --> ( 0 1 0 1 -2 ) 0 0 1 0 -1 0 0 0 0 0 x_1 + x_3 = 7 x_2 + x_3 = -2 x_4 = -1 これより x_1 = 7 - α_3 x_2 = -2 - α_3 x_3 = α_3 x_4 = -1 (自由度 1) あるいは、ベクトル表記して、 x_1 7 -1 ( x_2 ) = ( -2 ) + α ( -1 ) x_3 0 1 x_4 -1 0 # これを、「不定」とか「解なし」とすると高校で は○だが、大学では×、ちゃんと、「不定」の場 合もパラメータを利用して答を明記する。 [定理 5.3] 方程式が解を持つ <=> rank A = rank ~A (証明) rank \~A = rank \~B rank A = rank B = r である。 ここで、 \~B = ( | | d1 ) Er | * | .. | | dr ---+---+--- | | dr+1 0 | 0 | .. | | dm なので、 d_{r+1} = .. = d_m = 0 <-> rank B = rank ~\B <-> 解を持つ <-> rank A = rank \~A となる。 [定理 5.4] m=n で A が正則ならば、解は丁度一つの解を持つ (証明) \~A(A|c) --> (E_n|d) = \~B よって、 x_1 = d_1 ... x_n = d_n と一通りの解のみがでる。 # 上記をまとめて、以下の定理が示せる。 [定理] (1) rank \~A = rank A + 1 の時、解なし (不能) (2) rank \~A = rank A の時 i) rank A = n なら、丁度 1 つの解が出る ii) rank A < n なら、無数の解が存在する ( 不定 ) 自由度 は n - rank A 解は、一般解の形にする # 不定の時に、一般解がないと、「零点!!」 # 係数行列 A と拡大行列 \~A の rank を計算すれば、解の振舞いが解る (証明) 上記の定理から [定義] (斉次一次方程式系) 一次方程式系で定数項 (c=0) の場合、この一次方程式系を、斉次一次方程式系と呼ぶ # この場合、「x = 0」という解が必ず存在する # この解を「自明な解」と呼ぶ # 自明な解以外解を「自明でない解」と呼ぶ # 自明でない解は、存在しないか存在するとしたら無数にある [定理] rank A = r の時、 Ax = 0 の解は、 n-r 個の特別な自明でない解の線型結合で表すことができる (証明) 方程式の一般解から x = α_{r+1} ( .. ) + .. + α_n ( .. ) 1 0 0 0 .. .. 0 1 n-r 個 となる。 このベクトルは、0 でない ( なぜなら 1 の項がある ) しかも、互いに独立 ( なぜなら 1 の場所が異なる ) [定理 5.6] n > m ならば、自明でない解がある (証明) rank A <= m < n よって、 n - rank A >= 1 == 今後、すこし、同じ様な話をした後に、一旦内積の話をし、もういちど、基本 変形の応用 4 を行う。