代数幾何 I 古津先生 (2006/11/22) 第三章の行列式に入っているのだが、前回は、行列の話ではなく、置換群の話をしていた。 置換 S_n \ni \sigma \sigma = ( 1 2 .. n ) \sigma{1} \sigma{2} .. \sigma{n} 今日は、これを使って行列式の定義を行う。 # 今日は、最初から、定義 == # 目的は行列に対する行列式を考えるのだが、最初は、多項式に対する行列式を定義する [定義] n^2 個数の変数 x_{i,j} ( i,j = 1,..,n ) の多項式 \sum_{\sigma \in S_n} sgn \sigma x_{1,\sigma{1}}\sigma x_{2,\sigma{2}}..\sigma x_{n,\sigma{n}} ... (1) を、 n 次の行列式と呼び、 | x_11 x_22 .. x_1n | | x_21 x_22 .. x_2n | | .. | | x_n1 x_n2 .. x_nn | で表す。 [例] 1 次の行列式 |x_11| = \sum_{\sigma \in S_1} x_{1,\sigma{1}} = x_11 [例] 2 次の行列式 |x_11 x_12| = \sum_{\sigma \in S_2} x_{1,\sigma{1}} x_{2,\sigma{2}} |x_21 x_22| +1 -1 ここで S_2 = { ( 1 2 ), ( 1 2 ) } なので 1 2 2 1 = + x_11 x_21 - x_12 x_21 [例] 3 次の行列式 |x_11 x_12 x_13| |x_21 x_22 x_23| = \sum_{\sigma \in S_2} x_{1,\sigma{1}} x_{2,\sigma{2}} x_{3,\sigma{3}} |x_31 x_32 x_33| ここで、 S_3 = { ( 1 2 3 ), ( 1 2 3 ), ( 1 2 3 ), ( 1 2 3 ), ( 1 2 3 ), ( 1 2 3 ) } 1 2 3 2 3 1 3 1 2 1 3 2 2 1 3 3 2 1 なので = + x_11 x_22 x_33 + x_12 x_23 x_31 + x_13 x_21 x_32 - x_11 x_23 x_32 + x_12 x_21 x_33 + x_13 x_22 x_31 | x_11 x_12 x_13 | | x_21 x_22 x_23 | | x_31 x_32 x_33 | # ここまでは、第一章の定義と同じになっていることに注意 !! # ただ、この方法だと、4 次以上でも可能 # しかしながら、4 次以上は、この形で書き下すのは大変 # => 定義はこの形で、計算はもっと楽な方法を後で学ぶ == # ここまでは、「多項式の行列式」これを利用して、本来の「行列の行列式」を考える [定義] A = ( a_ij ) に対して n 次行列式 (1) の変数 x_ij に数、a_ij を代入して 得られる数 \sum_{\sigma \in S_n} sgn \sigma a_{1,\sigma{1}} a_{2,\sigma{2}}..a_{n,\sigma{n}} ... (2) を、A の行列式と呼び、 | a_11 a_22 .. a_1n | | a_21 a_22 .. a_2n | | .. | | a_n1 a_n2 .. a_nn | |A| det A det( a_1, .., a_n ) # ただし、 A = ( a_1, .., a_n ) 等で表す。 [例] 4 次の行列式 | a_11 a_12 a_13 a_14 | | a_21 a_22 a_23 a_24 | | a_31 a_32 a_33 a_34 | | a_41 a_42 a_43 a_44 | = \sum_{\sigma \in S_4} sgn \sigma a_{1,\sigma{1}} a_{2,\sigma{2}} a_{3,\sigma{3}} a_{4,\sigma{4}} # S_4 の要素は、4! = 24 個ある # S_4 の内容は、プリントで配った。 # 略 4 次元の場合も新しい定義で計算できることが解る => 理論的には、何次元でもできる # 5 次はもうやる気がないが暇な人はやってみる だが、斜めを使っての方法は使えない !! => 定義通り計算すれば答はでるが、大変なので、来週楽な方法を学ぶ [例 1] 対角行列 | a_11 0 | | a_22 | | . | | 0 . | | a_nn | の時、 a_{i,\sigma{i}} = 0 ( i \ne \sigam{i} ) # 前の添字と後の添字が同じじゃない場合は 0 になる となっている。 よって、 = sgn \sigma a_11 a_22 .. a_nn # これ以外の場合は係数 a_{i,\sigma{i}} が 0 になるので、なくなってしまう。 sgn \sigma だが、これは、\sigma が i を i に移す、恒等変換なので、sgn\sigma = +1 よって、 = a_11 a_22 .. a_nn 特に、 |E_n| = 1 |O_n| = 0 [注意] \sigma \in S_n \sigma = ( 1 2 .. n ) \sigma(1) \sigma(2) .. \sigma(n) に対し、この逆変換 \sigma^{-1} は、 \sigma^{-1} = ( \sigma(1) \sigma(2) .. \sigma(n) ) 1 2 .. n # 上下をひっくりかえすだけ = ( 1 2 .. n ) \sigma^{-1}(1) \sigma^{-1}(2) .. \sigma^{-1}(n) # 上でそろえた なので、 \sigma = ( \sigma^{-1}(1) \sigma^{-1}(2) .. \sigma^{-1}(n)) 1 2 .. n ともかける。 # 下のほうを順番にしたいこともあるので、その場合はこれを使う [例 2] 行列の一つの行(列)が全て 0 なら |A| = 0 proof) 第 i 行が 0 とする。 a_i1 = a_i2 = .. = a_in = 0 なので、 |A| = \sum_{\sigma \in S_n} sgn \sigma a_{1,\sigma{1}} a_{2,\sigma{2}}.. a_{n,\sigma{n}} 処が、各々項目で、 a_{i\sigma{i}} がふくまれ、これが 0 なので、全ての項がこれをかけることにより 0 となる。 # 0 を幾ら加えても 0 のまま !! j 列の場合は a_{i\sigma{i}} を a_{\sigma^{-1}(i)i} とすれば同様 [例 3] |cA| = c^n|A| # (定数は、n 乗ででてくる。良く(-1) をそのまま出すやつがいるが、これは間違い) proof) |cA| = \sum_{\sigma \in S_n} sgn \sigma c a_{1,\sigma{1}} c a_{2,\sigma{2}}.. c a_{n,\sigma{n}} = c^n \sum_{\sigma \in S_n} sgn \sigma a_{1,\sigma{1}} a_{2,\sigma{2}}.. a_{n,\sigma{n}} = c^n |A| 問 イ) | 0 .. a_1n | | a_2{n-1) | = sgn \sigma a_1n a_2(n-1) .. a_n1 | .. | | a_n1 | sgn \sigma は、テキスト p.77 の問 3 の結果を利用する。 ### 3 次の行列式は計算できるようにしておくこと !!! 問 ロ) | a b c | | c a b | = a^3 + b^3 + c^3 - 3abc | b c a | # この程度はパッとできるように !! [定理 2.1] |^tA| = |A| # これが、わかると、行と列の一方の性質を表せば、反対側が自動的にでてくるので便利 proof) A = ( a_ij ) とすると |A| = \sum_{\sigma \in S_n} sgn \sigma a_{1,\sigma{1}} a_{2,\sigma{2}}.. a_{n,\sigma{n}} ここで、定理 1.2 イ) より、\sigma が S_n を動く時、 \sigma^{-1} も S_n を動く よって、 |A| = \sum_{\sigma \in S_n} sgn \sigma^{-1} a_{1,\sigma^{-1}{1}} a_{2,\sigma^{-1}{2}}.. a_{n,\sigma^{-1}{n}} ここで、先の注にあるように順番を交換すると、 = \sum_{\sigma \in S_n} sgn \sigma^{-1} a_{\sigma{1}1} a_{\sigma{2},2}.. a_{\sigma{n},n} また、sgn \sigma = sgn \sigma^{-1} であることを利用すると、 = \sum_{\sigma \in S_n} sgn \sigma a_{\sigma{1}1} a_{\sigma{2},2}.. a_{\sigma{n},n} これは、添字を交換した結果になっているので、 = |^tA| となる。 [定理 2.2] ( n 重線型性 ) # n 個所、どこでも線型性が成立する イ) det(a_1, .., a_i'+a_i", .., a_n) = det(a_1, .., a_i', .., a_n) + det(a_1, .., a_i", .., a_n) ロ) det(a_1, .., c a_i, .., a_n) = c det(a_1, .., a_i, .., a_n) proof) |A| = \sum_{\sigma \in S_n} sgn \sigma a_{\sigma^{-1}{1},1} a_{\sigma^{-1}{2},2}.. a_{\sigma^{-1}{n},n} # 先の「注」による となる。 ここで、 a_{\sigma^{-1}{j},j} = a_{\sigma^{-1}{j},j}' + a_{\sigma^{-1}{j},j}" となっているんで、これを二つにわけて整理するだけ。 ロ) も a_{\sigma^{-1}{j},j} = c a_{\sigma^{-1}{j},j} とすれば同様。 # 先の定理 ( |cA| = c^n|A| ) は、この 2.2 のロからも証明できる [定理 2.3] ( 交替性 ) \tau \in S_n としたとき det( a_{\tau{1}}, .., a_{\tau{n}} ) = sgn\tau det( a_1, .., a_n ) proof) (左辺) = \sum_{\sigma \in S_n} sgn\sigma a_{1,\tau\sigma(1)} a_{2,\tau\sigma(2)} .. a_{n,\tau\sigma(n)} ここで、 sgn\sigma = sgn\tau sgn\tau sgn\sigma とできるので、 sgn\sigma = sgn\tau (sgn\tau\sigma) よって、 = sgn\tau \sum_{\sigma \in S_n} sgn\tau\sigma a_{1,\tau\sigma(1)} a_{2,\tau\sigma(2)} .. a_{n,\tau\sigma(n)} ここで、 [定理 1.2] ロ) より、\sigma が S_n 上を動くと、\tau\sigma も S_n 上を動く = sgn\tau |A| # 例を考えながら、具体的に考えてみるとよい # => 各自確認する [系 2.4] 行列 A の二つの行(列)が一致すれば、|A|=0 # 既に、転置しても行列式の値はかわらないので、行か列の一方を示せばよい # => 列にかんしてする proof) A=(a_1, .., a_n) で a_i = a_j とする \tau=(i,j) : 互換とすると、定理 2.3 より。 det(a_\tau(1),..,a_\tau{n}) = sgn\tau det(a_1,..,a_n) = sgn\tau |A| ( ∵ 定理 2.3] ) ところが、a_i = a_j なので、 = |A| 一方、sgn\tau = -1 ( 互換だから..) となるので、 = - |A| よって、 |A| = - |A| となることがわかったので、 |A| = 0 # これは、大変強力なツールで良く利用する # ただし、この形ではなく、次の形で利用することが多い [系 2.5] 行列 A のある行(列)に他の行(列)の定数倍を加えて得られる行列の行列式は元の行列 A の行列式 |A| に等しい。 # こちらも列だけで示す。 proof) 具体的に 第 i 列に、第 j 列の c 倍を加えたものを考える # これは、以前にも聽いたフレーズ ... 実は基本変形の 右から R_n(j,i;c) をかけたもの # R の基本変形で、行列式の値がかわらないので、R をどんどんつかって簡単な場合に行列式にしてしまおう !! det(a_1,..,a_i + c a_j, .., a_j, .., a_n ) = det(a_1,..,a_i, .., a_j, .., a_n ) + det(a_1,..,c a_j, .., a_j, .., a_n ) # n 重線型性 = det(a_1,..,a_i, .., a_j, .., a_n ) + c det(a_1,..,a_j, .., a_j, .., a_n ) # n 重線型性 = det(a_1,..,a_i, .., a_j, .., a_n ) + c 0 # 同じ列 a_j をふくんでいるから 0 = det(a_1,..,a_i, .., a_j, .., a_n ) = |A| [注] # さっきの[注] が解りにくいようなので、具体的な例でもう一度考える == 次回は、今回やった R だけでなく、他の基本変形、P, Q の振舞いを調べ、これらを 利用して、基本変形を利用した行列式の計算方法を学ぶ