代数幾何 I 古津先生 (2006/12/20) # 前回は行列式の細かい話をしていた # 今回は、教科書の一部が残っているので、その内容をやる == 定理 [3.2] \~a_ij が第(i,j)余因子 # 行列の i 行 と j 列成分を取り除いた小行列式に符号( (-1)^{i+j} ) を付けたもの a_1j \~a_1l + a_2j \~a_2l + .. + a_nj \~a_nl = \delta_jl |A| ... (3) (j,l = 1,..,n) a_i1 \~a_k1 + a_i2 \~a_k2 + .. + a_in \~a_kn = \delta_ik |A| ... (4) (j,l = 1,..,n) # 転置をすれば、上の結果と下の結果は同じなるので、一方だけを示す ## 教科書の式で欠落がある !! proof) # (3) を示す j=l の時、 左辺 = a_1l \~a_1l + a_2l \~a_2l + .. + a_nl \~a_nl = |A| ( なぜなら、行列の展開の(1)式より ) j\ne l の時 l 列目が j 列目と同じ 左辺 = | a_11 a12 ... a_1l-1 a_1j a1l_1 .. a_1n | | a_21 a12 ... a_2l-1 a_2j a1l_2 .. a_2n | | .. | | a_n1 a12 ... a_nl-1 a_nj a1l_n .. a_nn | # j 列目の展開を使う時、j 列目の要素は、展開の余因子では使われない !! ## この工夫は後でも利用するので覚えておく これは、j 列目と l 列目が同じ要素を持つので = 0 よって、j=l, j\ne l の両方の場合で、等式が成立する 定義 \~a_ij を(j,i)成分 [ i,j の順番が交換されていることに注意 ] とする n 次 行列を A の余因子行列と呼び \~A で表す。 即ち、 \~a_11 \~a_21 .. \~a_n1 \~A = ( \~a_12 \~a_22 .. \~a_n2 ) = ( \~a_ji ) ... \~a_1n \~a_2n .. \~a_nn # こんな行列が何が嬉しいかと言うと、元の行列とかけてみると解る \~AA の (l,j) 成分を考えると、これは次のようになる a_1j \~a_1l + a_2j \~a_2l + .. + a_nj \~a_nl これは、定理 [3.2] の (3) より、 = \delta_jl |A| よって、 \~AA = |A| E_n となることが解る。 同様に、定理 [3.2] の (4) を用いると A\~A = |A| E_n となる。 系 [3.3] \~AA = A\~AA = |A| E_n ... (5) proof) 上記の計算 系 [3.4] A : n 次正方行 # 「A : 正則 <-> |A| \ne 0」は、既に示した ## 今回の結果を利用しても示せる。 この時に、 A^{-1} = \frac{1}{|A|}\~A # つまり、「行列式」だけで、逆行列が計算できる # 余因子行列の成分も、小行列式から計算できることに注意 # 行列式が沢山あり、計算が面倒なのだが、この形だと都合がよいことがある # これが次のクラーメルの公式 連立方程式 Ax = b .. (6) で、A が n 次正則の場合を考える # この条件は厳しい条件なので、めったに成立しないのだが、成立するときは簡単にかけるので嬉しい。 この時、 x = A^{-1} b が唯一の解。 A = (a_ij), x = (x_j), b = (b_j) とし、 \~A = ( \~a_ji ) とすると、 x = A^{-1}b = \frac{1}{A} b より、 x_j = b_1 \~a_1l + b_2 \~a_2l + .. + b_n \~a_nl = \frac{1}{|A|} det( a_1, .., a_{j-1}, b, a_{j+1}, .., a_n ) # 後の式は j 番目を b に入れ替えたもの # この式を |A_j| と呼ぶ # このテクニックはさっき利用したもの これより x_j = \frac{|A_j|}{|A|} ( j = 1, .., n ) これが、クラーメルの公式 # 試験で、「クラーメルの公式を用いて解け」といわれたら、これを利用すること!! # 一般には、この公式をもちいるより、消去法 ( 基本変形 ) で解いた方が楽 # ただ、文字を含む式の場合など特別な場合は、クラーメルの方が楽な場合もある [例] a, b, c が互いに異なる数とする。この時、次の連立方程式を考える x + y + z = 1 a x + b y + c z = d a^2 x + b^2 y + c^2 z = d^2 これを、クラーメルの公式で解くことを考える。公式が利用できるためには、係数行列 が正則でなければならないので、係数行列式を考えると... | 1 1 1 | |A| = | a b c | | a^2 b^2 c^2| これは、「ヴァンデルモンドの行列式」なので、差績Δ(a,b,c)に等しい よって |A| = (b-a)(c-a)(c-b) \ne 0 となるので、正則 # これがヴァンデルモンドの行列式であることを思い付かないと駄目 # => 「思い付く」こと !!!! あとはクラーメルの公式を利用するだけ | 1 1 1 | |A_1| = | d b c | = (b-d)(c-d)(c-b) | d^2 b^2 c^2| | 1 1 1 | |A_2| = | a d c | = (b-a)(d-a)(d-b) | a^2 d^2 c^2| | 1 1 1 | |A_3| = | a b d | = (b-a)(d-a)(d-b) | a^2 b^2 d^2| よって、 x_1 = \frac{|A_1|}{|A|} = \frac{(b-d)(c-d)}{(b-a)(c-a)} # これを基本変形でやると大変 == # 以上で、本文の予定は済んだので、以下は、計算の解き方と、章末問題の気になる部分をやる Text P.20 2 イ) |A| = | 0 a b c | | -a 0 d e | | -b -d 0 f | | -c -e -f 0 | # この行列列は、交代行列 ( {}^tA = - A )、対称行列もある、来年度やる。 この式は、文字列をふくんでおり、無理に 0 をふやそうとしても複雑になるだけなので、単純に、展開してしまう。 |A| = (-1)^{1+1} a = | -a d e | = - a ( -cdf + bef - af^2 ) | -b 0 f | | -c -f 0 | + (-1)^{1+2} b = | -a 0 e | = + b ( be^2 - aef - cde ) | -b -d f | | -c -e 0 | + (-1)^{1+4} c = | -a 0 d | = - c ( -adf + bde - cd^2 ) | -b -d 0 | | -c -e -f | = (ad-be+cd)^2 # この場合は、むりに 0 をふやそうとするとかえって大変 # こんな場合は、素直に展開してもそれほど大変ではない ロ) 奇数次の交代行列の行列式は 0 proof) 定義により {}^tA = -A よって、両辺の行列式をとっても等しいので、 |{}^tA| = |-A| 一般に、 |{}^tA| = |A| |-A| = (-1)^n |A| であるので、これより、 |A| = (-1)^n |A| ここで、n が奇数なら |A| = -|A| よって、 |A| = 0 # 注意 !! # 一般に # |cA| = c^n |A| # である。 # # |-A| = - |A| だと思っている人がいるがこれは誤り # ## A が 奇数次元の時は、たまたま等しいのだが、偶数の時は成立しない !! # 注意(その 2) # # | A11 A12 | # | A21 A22 | は、|A11| |A22| - |A12| |A21| とは限らない !! # これも、毎年間違える人がいる !! # 一般には、こんなことできないが、次のような特別な場合は Okay 3 イ) A, B : n 次の時、 | A B | | B A | = |A+B| |A-B| である。 proof) A = (a_1, .., a_n), B = ( b_1, .., b_n ) とする。 左辺の第 j 列に 第 n+j 列目の 1 倍を加えてみる (j=1,..,n) 左辺 = | A+B B | | A+B A | となる。 こんどは、第 n+i 行に i 行目の -1 倍を加えてみる (i=1,..,n) 左辺 = | A+B B | | 0 A-B | 左下の部分が 0 行列になっているので、 左辺 = |A+B| |A-B| ( [定理 2.8] による ) となる。 # 個々の操作は、列ベクトルや行ベクトルに分解して、基本変形の形で # 書き下す。もし、行ベクトルを使うのが嫌なら、転置してやる ロ) # 今度は、ちょっと条件が付く。イ) の方は、複素成分でもよいが # ここでは、実成分だけの場合を考える A, B : n 次実正方行列 | A -B | | B A | = | det(A+iB) | # 外側の || は、「複素数の長さ」を表す # 内側は、紛らわしいので |A+iB| でなく det(A+iB) とした proof) 左辺の第 j 列に 第 n+j 列目の i(=\sqrt{-1} 倍を加えてみる (j=1,..,n) 左辺 = | A-iB -B | | B+iA A | となる。 こんどは、第 n+k 行に k 行目の -i 倍を加えてみる (k=1,..,n) 左辺 = | A-iB -B | | 0 A+iB | = |A-iB| |A+iB| # ここまでは、A, B が実であることを利用していない # ここまで一般の複素数の場合の公式として覚えてもよい = \bar{|A+iB|} |A+iB| # bar は外にだせるので.. = | det(A+iB) |^2 == 計算ばっかり rank からスタート 連立方程式、逆行列、行列式 置換群もやった