代数幾何 I 古津先生 (2008/06/26) # 前回は、一般の行列の話で、定義ばっかりだった # 特に、行列のかけ算の定義がややっこしかったが、これは重要 # !!! 行列のかけ算ができるようになっておくこと # 今日は、その続き == 行列の区分け # この話もちょっとややっこしいが、必要になることがあるので、おぼえる 一つ行列に縦横の線をいれ、要素を分けて、複数の行列を作る 例: 各列の間に線をいれて、列ベクトルにわける区分け 全ての要素を分る区分け # 一般には、一つか二つの線を入れるだけのことが多い # 区分けした結果は、行列を成分とする行列のように扱う [定義] (区分けの行列の積) A : (l,m) 型 (a_ij) これを、横に p-1 本、縦に q-1 本の線を入れると p q 個の部分に分けられる 縦の幅 l_1 〜 l_p ( 全部足すと l になる ) 横の幅 m_1 〜 m_q ( 全部足すと m になる ) 個々の要素 A_st : ( l_s, m_t ) 型 m_1 m_2 .. m_q l_1 A_11 | A_12| .. | A_1q -----+-----+-----+----- A = l_2 ( A_21 | A_22| .. | A_2q ) -----+-----+-----+----- ... | | | -----+-----+-----+----- l_p A_p1 | A_p2| .. | A_pq B : (m,n) 型 (b_ij) これを、横に q-1 本、縦に r-1 本の線を入れる 縦の幅 m_1 〜 m_q ( 全部足すと m になる ) # これは A と同じ区分け # これを同じにしないと、かけ算の定義ができない !! 横の幅 n_1 〜 n_r ( 全部足すと n になる ) 個々の要素 B_tu : ( m_t, n_u ) 型 # これを利用して、かけ算をしたい C = AB : ( l.n ) 型 これを、横に p-1 本、縦に r-1 本の線を入れる 縦の幅 l_1 〜 l_p ( 全部足すと l になる ) 横の幅 n_1 〜 n_r ( 全部足すと n になる ) 個々の要素 C_su : ( l_s, n_u ) 型 # これの左右を比較して C_su = \sum_{t=1}^q A_st B_tu # これは、行列の積の計算と同じ ( 覚えやすい ) ## 積の定義の一般化 proof) # 型の比較 A_st B_tu : (l_s, m_t) 型 x (m_t, n_u) よって (l_s,n_u) 型 個々の行列が全て(l_s,n_u) 型なので、その和も(l_s,n_u)型 # 成分の比較 両辺の (α,β) 成分を考える i = l_1 + l_2 + .. + l_{s-1} + α k = n_1 + n_2 + .. + n_{u-1} + β C_pr = ( C の (i,k) 成分 ) = \sum_{j=1}^m a_ij b_jk # A = (a_ij) は、省略形で、添字の i、j はどんな変数でもよい A_st B_tu の (α,β) 成分を考えると = \sum_{j=m_1+..+m_{t-1}+1}^{m_1+..+m_{t-1}+m_t} a_ij b_jk \sum_{j'=1}^{m_t} A_st の(α, j;) 成分 x B_tu の (j', β) 成分 これは、 \sum_{j=1}^{m_1} a_ij b_jk \sum_{j=m_1+1}^{m_1+m_2} a_ij b_jk .. \sum_{j=m_1+..+m_{q-1}+1}^{m_1+..+m_{q-1}+m_q} a_ij b_jk を順番に加えたものなので、結局、まとめて \sum_{j=1}^{m_1+..+m_{q-1}+m_q} a_ij b_jk ところが、 m_1+..+m_{q-1}+m_q=m なので、 \sum_{j=1}^{m} a_ij b_jk となり、左辺と一致する。 # これは一度きいただけでは解らない # 家にかえって、大きな図を書きながら、ゆっくりかんがえてみよう # 以下では、この中の特別な場合が役立つので、幾つか役立つパターンを学ぶ 例 : (p=q=r=2 の場合) # このパターンが一番多い A_11 | A_12 A = ( ------+------- ) A_21 | A_22 B_11 | B_12 B = ( ------+------- ) B_21 | B_22 の時、 A_11 B_11 + A_12 B_21 | A_11 B_12 + A_12 B_22 AB = ( ----------------------+---------------------- ) A_21 B_11 + A_22 B_21 | A_21 B_12 + A_22 B_22 # 基本は、行列の積と同じだが、成分が、行列なので、積の順序を変更してはならない !! となる。 # このパターンは良く使うので、できるようにしておく !!! # 上の一般的な方は、別にできなくてもよい 特に、A_21 =O, B_21 = O の時 A_11 | A_12 A = ( ------+------- ) O | A_22 B_11 | B_12 B = ( ------+------- ) O | B_22 であれば、 A_11 B_11 | A_11 B_12 + A_12 B_22 AB = ( ----------+---------------------- ) O | A_22 B_22 さらに、A_12 = O, B_12=O の時 A_11 | O A = ( ------+------- ) O | A_22 B_11 | O B = ( ------+------- ) O | B_22 であれば、 A_11 B_11 | O AB = ( ----------+----------- ) O | A_22 B_22 また、以前やった、 A:(m,n) 型 A = (a_1| .. |a_n) : 縦ベクトルに分る も実は、区分けだった == [逆行列] n 次正方行列 # 正方形の場合の時だけできることが色々あるので、その場合を特別に行う A+B, A-B, AB は、全て n 次正方行列 O_nn, E_nn は、それぞれ、和、積の単位元になる # では A/B が計算できるか ? # 実は、必ずしも上手くゆかない # 整数だって 0 時はだめなのだが、行列は駄目な場合が沢山ある [問1] A = ( 1 2 ) 3 4 は、 AX=E を満す X は存在しない YA=E を満す Y は存在しない proof) X = ( a b ) c d とすると、 AX = ( a+2c b+2d ) = E = ( 1 0 ) 2a+4c 2b+4d 0 1 なので、成分同士を比較し a+2c = 1 2a+4c = 0 なので、矛盾。 # Y の場合も同様 # 割り算が、定義できれば ax=b より x = b/a と一次方程式が解けるのだが.. # 行列では、これも駄目な場合がある [問2] A = ( 1 2 ), B = ( 1 2 ) 0 0 2 4 の時、 AX = B を満す X は存在しない YA = B を満す X は無数に多く存在する proof) X = ( a b ) c d とすると、 AX = ( a+2c b+2d ) = B = ( 1 2 ) 0 0 3 4 なので、矛盾。 Y = ( a b ) c d とすると、 YA = ( a 2a ) = B = ( 1 2 ) c 2c 3 4 なので、 a = 1, c = 2, b,d はなんでもよい(答が無数) # 上記は、2 x 2 だったが、一般でも同様に上手く行かない場合がある [問 3] A=(a_1,..,a_n) \exist j st. a_j = 0 => XA = E となる X は存在しない proof) XA = (Xa_1,..,Xa_j, Xa_n) X a_j = X 0 = 0 一方、E の j 番目は e_j \ne 0 なので、 XA \ne E # ここまでで、色々だめな場合があることがわかった # そこで、駄目でない場合を考え、その特別な場合に名前をつけて [定義] (正則行列) A : n 次元 XA = AX = E となる X が存在する場合、 # 始めから左と右の両方を準備しておく ( 実は、一方だけでよい ) # これは、ようするに、「割り算」ができるってこと A を正則行列 # この「正則行列」はこの後ずっとつかう ( 4 年生まで使う ) と呼び、 X を A の逆行列 # この「逆行列」もずっと使う ## 高校でもやった、ただし、高校では、2 次まで、大学では一般の n 次を と呼び、 A^{-1} で表す。 [定理] (逆行列は一意) A : 正則 => A の逆行列はただ一つ proof) X, Y : A の逆行列とすると X = X E = X (AY) = (XA) Y = E Y = Y [定理] (逆行列も正則) A:正則 => A^{-1} : 正則 (A^{-1})^{-1} = A proof) 定義より AA^{-1} = A^{-1}A = E だが、これは、A^{-1} を中心に考えば、 A が A^{-1} の逆行列になっている ことを示している。 したがって、 A^{-1} は正則 で、 (A^{-1})^{-1} = A [定理] (正則行列の積は正則) A, B : 正則 => AB : 正則 (AB)^{-1} = B^{-1} A^{-1} # 転置の場合も、積の順序がかわった # 変るのはこの二つなので、いっしょに覚えて忘れないこと # 答が示されている場合は、その答を利用して問題を解く proof) (B^{-1} A^{-1})(AB) = B^{-1} (A^{-1}A) B = B^{-1} E B = B^{-1} B = E # 逆も同様 # 逆行列を求める問題が出る !! [問1] A: 正則 => \bar{A} : 正則 proof) \bar{A^{-1}}\bar{A} = \bar{A^{-1}A} = \bar{E} = E # 逆も同様 よって、 \bar{A} は正則で、その逆行列は \bar{A^{-1}} A: 正則 => {}^tA : 正則 proof) {}^tA^{-1}{}^tA = {}^t(AA^{-1}) = {}^tE = E # 逆も同様 よって、 {}^tA は正則で、その逆行列は {}^t{A^{-1}} [系] {}^t\bar{A}^{-1} は適用順序を気にする必要がない [問 2] A = ( a b ) が正則 <=> |A| = ad-bc \ne 0 c d # これは、2 次元の場合だが、A の正則性が |A| の非零性であること # が一般の n でも成立する # ただ、まだ、n 次の行列式をやっていないので、ここでは 2 次の場合だけ示す # 高校でやったかもしれない ( 連立方程式の解法で学 ) proof) A を正則とすれば、逆行列 X が存在し、 AX = XA = E ここで、 X = ( p q ) r s とおくと、連立方程式 ap+br=1 aq+bs=0 cp+dr=0 cq+ds=1 ができ、これから (ad-bc)p=d (ad-bc)q=d (ad-bc)r=-c (ad-bc)s=a が成立。 ここで、 (ad-bc)=0 -> a=b=c=d=0 -> A が正則でないので矛盾 よって、 A が正則ならば (ad-bc)\ne0 一方、 (ad-bc)\ne0 ならば p=d/(ad-bc) q=d/(ad-bc) r=-c/(ad-bc) s=a/(ad-bc) とすると、確かに AX=XA=E となる ( 実際に計算して、成分を比較する )。 よって、 A は正則 # 習っていなかったり、忘れた人は、これを覚えておく # 一般の n 次をやるのに 2 次もできないでは話にならない == 基本変形 / rank / 逆行列