代数幾何 I 古津先生 (2008/07/03) # ちょっとおくれた == 正方行列 正方行列固有の性質がいくつかある 例 : 逆行列が存在する [定義](対称区分) 正方行列 A の区分けの中、行と列の区分けを同じ形で行う このような形の区分けを「対称区分け」と呼ぶ l_1 l_2 .. l_p l_1 A_11 | A_12| .. | A_1p -----+-----+-----+----- A = l_2 ( A_21 | A_22| .. | A_2p ) -----+-----+-----+----- ... | | | -----+-----+-----+----- l_p A_p1 | A_p2| .. | A_pp すると、この区分けの成分は、全て正方行列になる。 [定理] 正方行列 A の対称区分け A_11 | A_12 A = ( -------+------- ) A_21 | A_22 に対して、 A_11, A_22 が正則ならば、A も正則 proof) A_11^{-1} | -A_11^{-1} A_12 A_22^{-1} B = ( ------------+--------------------------- ) O | A_22^{-1} とすれば、 AB = BA = E よって、A は正則で、B は A の逆行列 # この場合は、4 次の行列の逆行列を 2 次の行列の逆行列で求めることができる ## 覚えておくと便利 !! # 実は、これの逆も成立するのだが、今の段階ではそれを示すのは難しいので、後でやる [定理] 正方行列 A の対称区分け A_11 | O | ... | O -----+------+-----+----- O | A_22 | ... | O A = ( -----+------+-----+----- ) | | | -----+------+-----+----- O | O | ... | A_pp に対して、 A が正則 <-> A_11, .., A_pp 全てが正則 proof) ( <- ) # こっちは簡単 A_11^{-1} | O | ... | O ----------+-----------+---------+-------- O | A_11^{-1} | ... | O B = ( ----------+-----------+---------+-------- ) | | | ----------+-----------+---------+-------- O | | ... | A_pp^{-1} とすれば、 AB = BA = E となるので A が正則。 ( -> ) # こっちはちょっと大変 A が正則なので、A^{-1} をもつ、それを同じように区分けを作る # ただし、内容が良くわからないので次のようにする B_11 | B_12 | ... | B_1p -----+------+-----+----- B_21 | B_22 | ... | B_2p B = ( -----+------+-----+----- ) | | | -----+------+-----+----- B_p1 | B_p2 | ... | B_pp これと、Aの積 AB, BA を計算するとこれは E になるはずなので比較すると A_ii B_ii = B_ii A_ii = E なので、 B_ii # このような特殊なパターンは、逆行列が簡単に計算できる [定義] (対角成分) 行列 A = (a_ij) の a_ii のことを A の対角成分と呼ぶ [定義] (対角行列) # 特に、一行/一列ずつ区分けした結果、上記のような形になった場合、 対角成分以外の成分が 0 であるような行列を対角行列と呼ぶ a_11 A = ( a_22 ) ... a_pp [定理] A,B が対角行列 => AB=BA proof) 対角行列を一行/一列ずつ区分けすれば、 a_11 b_11 AB = BA = ( a_22 b_22 .. a_pp b_pp ) 成分は(行列ではなく、普通の複素数なので..) 交換できる [定理] A を対角行列とするとき A が正則 <-> \forall i a_ii \ne 0 proof) 区分けをして考えると A が正則 <-> \forall i (a_ii) が正則 <-> a_ii \ne 0 特に、 \frac{1}{a_11} A^{-1) = ( \frac{1}{a_22} ) ... \frac{1}{a_pp} となる。 # 更に、これの特別な場合 [定義] A = cE をスカラ行列とよぶ。 [定理] A:スカラー行列 <-> A が全ての行列と交換可能 proof) ( -> ) AB = (cE)B = c(EB) = cB = c(BE) = B(cE) = BA ( <- ) 任意の行列と交換可能ということで、次のような特別な行列を考える E_pq : pq 成分のみ 1 で、他は 0 となる。 [注意] A E_pq は、A の q 列のみが出てくる E_pq A は、A の p 行のみが出てくる のこりは 0 A は E_pq とも交換可能なので、 A E_pq = E_pq A より、 a_pp = a_qq その他の要素 a_ip ( i \ne p ) a_qi ( i \ne q ) は 0 となる # こんな簡単な行列 E_pq との交換だけでもこれだけきつい条件となる これが、任意の p,q で成立するので、 a_ii = a_11 ( \forall i ) a_ij = 0 ( i \ne j の時 ) よって、 A = a_11 E == [定義] (固有和:trace) 行列 A の対角成分の和 \sum_{i=1} a_ii を A の 固有和 (trace) # この講義では trace(トレース) を使う と呼び、 Tr A # tr A と書くこともある で表す。 [定理] Tr ( cA ) = c Tr(A) Tr (A+B) = Tr A + Tr B Tr (AB) = Tr(BA) # この性質は大変重要 ## 行列の世界では、積の順番をかえると違うものになるのが普通だが Tr はできる # 逆に Tr(AB) は Tr(A) Tr(B) とならない ( 積は分けられない ) ## 行列の世界では、積は分られることが多いので、これも注意 proof) AB = ( c_ij ) とすると、 c_ii = \sum{j=1}^n a_ij b_ji よって、 Tr AB = \sum_{i=1}^n \sum{j=1}^n a_ij b_ji 一方、 BA = ( d_ij ) とすると、 d_ii = \sum{j=1}^n b_ij a_ji よって、 Tr BA = \sum_{i=1}^n \sum{j=1}^n b_ij a_ji これは、複素数の積の順と和の順を替ただけなので等しくなる。 # Tr はこの後出てくるので注意 ## というか、代数幾何の用語は、後で、色々な処で出てくる ! [定義] (羃乗) A : n 次正則の時 AA も n 次になるのでこれを A^2 で表す。 一般に、k>0 の時、 A を k 回かけた時の結果を A^k で表す。 [定理] A^k A^l = A^(k+l) (A^k)^l = A^(kl) AB=BA ならば、(AB)^k = A^k B^k # 証明は、厳密には、帰納法で行う [定義] A が正則ならば、 K^0 = E A^(-k) = (A^{-1})^k とおくことにより、上記の定理は、k,l が Z の時も成立する。 == # 線型空間、線型写像の話なので、これは、後期の話題だが、ここで少しやっておく C^n : n 項列ベクトル全体の集合 (R^n : n 項実列ベクトル全体の集合) [定義] (線型変換) T : C^n -> C^m が、以下の性質 T ( x+y ) = T x + T y T ( c x ) = c ( T x ) を満すとき、これを線型写像と呼ぶ。 例: A : (m,n) 型行列に対して、 T_A : C^n -> C^m を T_A x = A x で定めると、T_A は、線型写像になる。 # これは、既に、平面、空間で学んだ内容の一般化になっている # ここでも逆を示すことにする [定理] T : C^n -> C^m が線型写像の時 \exist A s.t. T = T_A proof) e_1, .., e_n : n 項目単位ベクトルを考え、 a_j = T(e_j) ( \forall j ) とし、 A = ( a_1, .., a_n ) とする。 すると、 T(e_j) = A e_j = a_j = T(e_j) # つまり、単位ベクトルに関して T と T_A が等しい # この関係が、全てのベクトルに対して等しいかどうかを調べる x = \sum_{j=1}^n x_i e_i なので、 T x = T ( \sum_{j=1}^n x_i e_i ) = \sum_{j=1}^n{ x_i T(e_i) ) = \sum_{j=1}^n{ x_i T_A(e_j) } = T_A ( \sum_{j=1}^n x_i e_i ) = T_A x よって、 { (m,n) 型の行列 } <-> { C^n -> C^m } \in \in A <-----> T_A [定理] T : C^n -> C^m A : (m,n) 行列 S : C^m -> C^l B : (n,l) 行列 => ST : C^n -> C^l BA proof) (S T) x = (T_B T_A) x = T_B (T_A x) = T_B (A x) = B (A x) = (BA) x = T_{BA} x # こうなるように実は、行列の積を定義した [定理] # 特に、m=n の時 A : 正則ならば T_{A^{-1}} は T_A の逆変換になる proof) T_A T_{A^{-1}} = T_{A A^{-1}} = T_E = I T_{A^{-1}} T_A = T_{A^{-1} A} = T_E = I [定義] (恒等変換) I : x |-> x ( \forall x \in C ) を C の恒等変換と呼ぶ I = T_E [定理] T_A が逆変換ならば、A:正則 proof) # まず、T_A の逆変換もまた、線型変換になることを示す (T_A)^{-1} を S とすると、x, y \in C に対して S x = x', S y = y' とすると S(x+y) = S (T_A(x')+T_A(y')) = S (T_A(x'+y')) = x' + y' = S(x) + S(y) 同様にして S(c x) = c S(x) よって、S は線型変換。 そこで、これを表す行列を B とすると、 T_A T_B = I || || T_AB T_E よって、 AB = E よって、 A は正則 # ここまでは、複素数固有の話は一切していないので、要素が複素数でも実数でも同じ話 { n 次正方行列 } <-> { C^n の線型変換 } { n 次実正方行列 } <-> { R^n の線型変換 } { 2 次実正方行列 } <-> { R^2(平面) の線型変換 } { 3 次実正方行列 } <-> { R^3(空間) の線型変換 } == この後の 2 回で、 「行列の基本変形」 をやる、これは、 階数 (ランク) 逆行列 一次方程式 行列式の計算 試験の話 ほとんど計算、「示せ」は、一つだけ 計算できるように、しかも要領よくできるように !! 代機が先(微積は後)