代数幾何 I 古津先生 (2008/07/10) 去年までは、通年だったので、前期甘くし、後期を辛くして釣合をとっていた 今年もそうしてしまった -> この為にかなり甘くなってしまった 後期は、辛くするので注意するように これまでは、ずっと、行列の話をしてきて、後期も行列の話をする ただ、今日は、ちょっと異なる話 == 内積 R^2 (平面ベクトル) と R^3 (空間ベクトル) での内積は既にやっている a x ( ( b ), ( y ) ) = a x + b y + c z c z # 前期の最後の方で、C^n のベクトルをやったので、そこでの内積を導入する C^n の内積 C^n の要素は、(n,1) 型の行列として考えてよい。 x, y \in C^n の時 {}^t x は (1,n) 型の行列 \bar{y} は (n,1) 型の行列 すると、 {}^t x と \bar{y} の積が定義できる ( 結果は、(1,1) 型の行列 ) 結果が、(1,1) で、要素が一つしかないので、この結果の (1,1) 型行列を、その唯一の要素である複素数と同一視し、これを 「x と y の内積」とよび (x,y) または、 x ・ y で表現する [例] 1 1 x = ( 2 ), y = ( 3 ) ( x, y \in R^3 であることに注意 ) 0 1 の時 (x,y) = {}^tx \bar{y} \bar{1} = ( 1 2 0 ) ( \bar{3} ) \bar{1} 1 = ( 1 2 0 ) ( 3 ) ( 実数は\bar をとっても変らない ) 1 = ( 1\times 1 + 2 \times 3 + 0 \times 1 ) = ( 7 ) = 7 ( 同一視 ) この結果は、前と同じ ( つまり、今回の定義は、これまでの定義の拡張になっている) ( (i), (i) ) = (i 0) ( -i ) = i \tims (-i) + 0 \times 0 = 1 0 0 0 # 良くある間違いは、「バー」を忘れること、これが大変多い # => 「バー」を忘れないように !!! ## 自分自身との内積は、長さの二乗を計算する場合が多い ## バーをわすれると、長さの二乗が負の数になり、長さが、虚数になることがある ## これは明かに可笑しい ( 長さは、必ず、正の実数になるはず !! ) # 今日の一番大切な内容は、「バー」が必要なこと 一般に、 x_1 x = ( x_2 ) ... x_n y_1 y = ( y_2 ) ... y_n の時 (x,y) = \sum_{i=1}^n x_i \bar{y_i} # これが、一般的な定義 ## y の所に \bar が入ることが重要な点 [定理] (x_1+x_2,y) = (x_1,y) + (x_2,y) (x,y_1+y_2) = (x,y_1) + (x,y_2) (c x,y) = c(x,y) (x,cy) = \bar{c}(x,y) # ここが違う [定理] (y,x) = \bar{(x,y)} proof) (y,x) = {}^t y \bar{x} = {}^t ( {}^t y \bar{x} ) # (1,1) 型行列なので、転置をとっても同じ = {}^t \bar{x} \bar{\bar{y}} # 積の転置は、転置の積にするときに順番が変るので.. = \bar{{}^t x} \bar{\bar{y}} # 転置と\bar は交換可能 = \bar{{}^t x} bar{y}} = \bar{(x,y)} # これは、\sum の形を使うと簡単が、こちらの形式も覚えて欲しいので.. # 内積の要素を交換するときには、注意すること !! \bar がでてくるので !!! [定理] (x,x) は、0 または正の実数 特に、 (x,x) = 0 <-> x = 0 proof) x_1 x = ( x_2 ) \in C^n ... x_n とすると、 (x,x) = \sum_{i=1}^n x_i \bar{x_i} = \sum_{i=1}^n |x_i|^2 >= 0 特に、(x,x) = 0 <-> |x_i|^2 = 0 = x_i = 0 [定義] (長さ) \sqrt{(x,x)} を x の長さ/ノルムと呼び |x| ( || x || ) で表す # 高校までは「長さ」とよんでいたのでここでも「長さ」と呼ぶ # 内積から、「長さ」が定義された。実は、この形で「長さ」を定義するために、内積の所で、y に \bar を導入 # 「長さ」が定義できると、「長さ」に関する不等式の議論ができるようになる。 ## ここで、大変重要な不等式を導入する ( これは、いたるところででてくる !!! ) [定理] (シュワルツの不等式) |(x,y)| <= |x| |y| # これは、空間や、平面ではあたりまえ ( \cos は -1 〜 1 なので.. ) # でも一般の場合は 角度の定義ができないので、別の形で示す必要がある proof) # まず、y が 0 ベクトルの場合を示し、次に、そうでない場合を示す i) y = 0 の時 両辺とも 0 なので、成立 ii) y \ne 0 の時 a, b \in C に対し、 0 <= |a x + b y| = (a x + b y, a x + b y ) # 「長さ」と「内積」はいつでも入れ替えられるように !!! = a \bar{a} (x,x) + a \bar{b} (x,y) + b \bar{a} (y,x) + b \bar{b} (y,y) = |a|^2 (x,x) + a \bar{b} (x,y) + \bar{a}b \bar{(x,y)} + |b|^2 (y,y) ここで、a=|y|^2, b = - (x,y) とすれば、 = |y|^4|x|^2 - |y|^2 \bar{(x,y)}(x,y) - |y|^2 (x,y)\bar{(x,y)} + |(x y)|^2 |y|^2 = |y|^4|x|^2 - |y|^2 |(x,y)|^2 - |y|^2 |(x,y)|^2 + |(x y)|^2 |y|^2 = |y|^4|x|^2 - |y|^2 |(x,y)|^2 よって、 0 <= |y|^4|x|^2 - |y|^2 |(x,y)|^2 なので、 |y|^2 |(x,y)|^2 <= |y|^4|x|^2 ここで、y \ne 0 より |y| \ne 0 なので両辺を |y|^2 で割ると |(x,y)|^2 <= |y|^2|x|^2 元々 |(x,y)|, |y||x| は非負なので、両方の平方根をとってもよい すなわち |(x,y)| <= |y||x| # この不等式は他の分野でもでてくるが、そこで普通(i.e. \cos ) に証明すると大変 # この形で、一般的に証明すると、たの場合でも成立する [定理] (三角不等式) |x+y| <= |x| + |y| # 三角不等式の意味は、以前も説明した # 従来は、図示してしめしたが、今回は、図示できないので、一般的に証明しなおす proof) |x+y|^2 = (x+y,x+y) = |x|^2 + (x,y) + (y,x) + |y|^2 = |x|^2 + (x,y) + \bar{(x,y)} + |y|^2 # ここで、後で示す複素数の性質 (*) を利用すると <= |x|^2 + 2 |(x,y)| + |y|^2 <= |x|^2 + 2 |x| + |y| + |y|^2 # シュワルツの不等式より = (|x|+|y|)^2 よって、 |x+y| <= |x| + |y| # ここで (*) の性質を示す [補題] z \in C に対して z + \bar{z} <= 2|z| proof) z = x + y i ( x,y \in R ) とすると \bar{z} = x - y i よって、 z + \bar{z} = 2 x ここで x^2 <= x^2 + y^2 なので、 x <= \sqrt{x^2 + y^2} よって、 x <= |z| よって、 z + \bar{z} <= 2|z| # ついでに、 # [定理] z + \bar{z} = 2 Re z ( Re z は z の実部 ) # # 引くと、虚部がでてくるが、ここでは省略 # この二つの不等式は、数学のいたる所で出てくるので、しっかり覚える # 内積が導入されたので、「角度」は定義されないが、「直交」は定義される [定義] (x,y) = 0 の時、x と y は、「直交する」と呼び x ↓ y で表す [問1] |x+y|^2 + |x-y|^2 = 2 ( |x|^2 + |y|^2 ) proof) 左辺 = ( |x|^2 + (x,y) + (y,x) + |y|^2 ) + ( |x|^2 - (x,y) - (y,x) + |y|^2 ) = 2 ( |x|^2 + |y|^2 ) [問2] (x,y) = 0 -> |x+y| = |x|^2 + |y|^2 # 直交していれば、ピタゴラスが成立する proof) 左辺 - 右辺 = |x+y|^2 - (|x|^2+|y|^2) = (x,y) + (y,x) = 0 + 0 # 直交しているので内積は 0 = 0 # 逆はどうか ? ( つまりピタゴラスが成立すれば、直交しているかどうか ) # 結果は微妙 実際に考えてみると ピタゴラスが成立すると、 (x,y) + (y,x) = 0 処が、これは、 (x,y) + \bar{(y,x)} = 2 Re (x,y) = 0 すなわち、(x,y) の内積の実部が 0 になるというだけ つまり、逆はいえない ただし、x,y が複素ベクトルなので、内積も一般的には複素数だが、 実ベクトルでは、内積も実数になる つまり、実数空間では、ピタゴラスから直交がでてくる # ここまでは、行列がでてこなかったので、行列の話をすこしだけする。 A : (m,n) 型, x \in C^n ( (n,1) 型 ) とする A x を計算すれば、それは、C^m 型になる これは、C^m の要素 y と内積を考えることができる [定理] (Ax,y) = (x,{}^t\bar{A}y) ( \for x \in C^n, y \in C^m ) proof) (Ax,y) = {}^t(Ax)\bar{y} = {}^t x {}^tA\bar{y} = {}^t x \bar{\bar{{}^tA}} \bar{y} = {}^t x \bar{\bar{{}^tA}y} = (x,\bar{{}^tA}y) = (x,{}^t\bar{A}y) [定理] (上記の逆) (Ax,y) = (x,By) ( \for x \in C^n, y \in C^m ) -> B = {}^t\bar{A} proof) (Ax,y) = (x,{}^t\bar{A}y) # 一つ前の定理 なので、 0 = (Ax,y) - (x,By) = (x,{}^t\bar{A}y)- (x,By) = (x,(B-{}^t\bar{A})y) これが、任意の x,y で成立するので、特に x = (B-{}^t\bar{A})y とすれば、これは、 |(B-{}^t\bar{A})y| = 0 を意味するので、 (B-{}^t\bar{A}y = 0 更に、y として e_1, .., e_n を選べば、 (B-{}^t\bar{A}e_i = (B-{}^t\bar{A}の i 列目 = 0 ベクトル よって、 (B-{}^t\bar{A} は零行列 よって、 B = {}^t\bar{A} # ここで良く利用するテクニック # [定理] # (x,Ay) = 0 ( \for x, y ) # (Ax,y) = 0 # -> A = O # この性質から、{}^t\bar{A} が重要なことがわかるので名前を付ける [定義] (随伴(アジョイント)行列) {}^t\bar{A} を A の随伴(アジョイント)行列と呼び A^* で表す。 [定理] (A^*)^* = A (A+B) = A^* + B^* (cA)^* = \bar{c} A^* (AB)^* = B^* A^* [定義] A : 正方行列 A^* = A の時、 A はエルミート行列 と呼ぶ。 # エルミート行列もあっちこっちで出てくるので、ここで覚えておく 特に、A が実行列の時は、 実対称行列 という。 一般に、 A = (a_ij) とすると、 A がエルミートになるには、A = A^* なので、 a_ij = \bar{a_ji} となる場合である。 # こちらを定義にしてもよい 特に、実行列では、 a_ij = a_ji なので、対角で折り返した形になることが解る(対称性) [定義] A : 正方行列 A^* A = E の時、 A はユニタリ行列 と呼ぶ。 # これは、A^* = A^{-1} であることを意味する # したがって、 # A^*A = E <-> A^* = A^{-1} = AA^* E # となり、どれを定義に用いてもよい。 特に、実行列の場合は、直交行列と呼ぶ # なぜ、「直交」と呼ぶかは、ここでは説明しない [定理] ユニタリ行列は、正則 [定理] A, B がユニタリ行列 -> AB もユニタリ行列 proof) (AB)^*(AB) = (B^*A^*)(AB) = B^*(A^*A)B = B^*EB # A がユニタリ = B^*B = E # B がユニタリ [定理] A がユニタリならば A^* = A^{-1} もユニタリ (A^*)^*(A^*) = A(A^*) = AA^{-1} = E # 積と逆が定義されたので、群になるが、これは来年度以後に学ぶ # 今、名前だけ.. == 今日の内容で大事なのは、 内積で、後の要素に\bar が必要なこと あと、二つの行列を学んだ