代数学幾何学 A (2009/05/21) 古津先生 これまで、主に、ベクトルの話をしてきたが、今回から、行列の話をする ただし、これまでは、2 次、あるいは 3 次の行列しかでてこなかったが、 今回から、サイズが大きくなり、一般に m,n 次の行列を扱うことになる。 == § 行列 [定義] (行列) 横に n 個、縦に m 個の数を並べた次のようなものを a_11 a_12 .. a_1n 第 1 行 A = ( a_21 a_22 .. a_2n ) 第 2 行 .. a_m1 a_m2 .. a_mn 第 m 行 第1列 第2列 第n列 (m,n) 型行列と呼ぶ。 # 次数がふえただけなので、呼びかたなどは、2, 3 次と同じものを踏襲する [定義] (正方行列) 特に、(n,n) 型行列を、n 次正方行列とも呼ぶ。 [定義] (成分) a_ij を A の (i,j) 成分と呼ぶ # これまでの議論では、成分 (a_ij) が、実数のものだけ扱ってきた # a_ij \in \R # しかし、以下では、成分が複素数の場合も考える # a_ij \in \C # もちろん、\R \subset \C なので、\C で成立することは \R で全て成立する # ただ、\R でしか成立しない場合もあり、この場合を一々区別すのは面倒なので、 # \R または \C を \K で表す # ことにする。 [定義] (実行列) 成分 a_ij がすべて、実数の行列 ( \R-行列 ) [定義] (複素行列) 成分 a_ij がすべて、複素数の行列 ( \C-行列 ) [定義] \K-行列 は実行列または、複素行列 # A = (a_ij) : (m,n) 型 などと表す [定義] (列ベクトル/縦ベクトル) (m,1) 型行列を m 項列(縦)ベクトルという [定義] (行ベクトル/横ベクトル) (1,n) 型行列を n 項行(横)ベクトルという # 大学では主に、ベクトルは、列ベクトルの形で利用する # 行ベクトルが必要な場合であっても、列ベクトルの「転置」の形にしてしまう [定義] (実ベクトル全体) n 項実列ベクトルの全体を \R^n で表す [定義] (複素ベクトル全体) n 項複素列ベクトルの全体を \C^n で表す [定義] (\K-ベクトル全体) n 項\K-ベクトルの全体を \K^n で表す # ここまでで準備ができたので、愈々話がはじまるが、最初に二つの行列が等 # しいということはどうゆうことかを示しておく [定義](行列の等値性) 行列 A, B が等しいとは、 A と B の型が一致し 対応する成分が全て等しい こと。 ( 共に (m,n) 型で、 a_ij = b_ij ) この時、 A = B と表す。 [定義] (行列の和) A = ( a_ij ), B = ( b_ij ) : (m,n) 型行列とする これに対応して、 和 A + B を、 A + B = ( a_ij + b_ij ) で定義する。 # これは、これまでの 2 次, 3 次の行列の和に一致している [定義] (行列のスカラー倍) A = ( a_ij ) : (m.n) 型 c \in \K に対し、 cA = ( c a_ij ) で定義する。 [定義] (行列の引き算) A - B = A + (-1)B # 特に、 (-1)A を -A で表す [定義] (零行列) O_m,n とは (m.n) 型で、成分が全て 0 の行列。( 型が明かな場合は、m,n を 省略し、単に O と書く。) [定理] A + O = A A - A = O 1 A = A 0 A = O [定理] (A+B)+C = A+(B+C) A + B = B + A c(A+B) = cA + cB (c+d)A = cA + dA (cd)A = c(dA) # ここまでは簡単だが、ここからちょっと厄介。 [定義] (行列の積) A : ( l, m ) 型 B : ( m, n ) 型 の積 AB = ( c_ij ) : ( l,n ) 型 を以下で定義する。 # [注意] # A, B の型によって、積が定義されない場合がある # A の行と、B の列の長さが一致している必要がある # !!! (l,m) と (m,n) の積は、m が一致しているから積が定義 # 特に、A, B が同じ型でも正方でなければ積が定義されない # A, B と AB の型は異なることがある # (l,m) と (m,n) の積は (l,n) 型 # !!! 積 AB は、A とも B とも異なる型の可能性がある # AB があっても BA がないかもしれない # A, B が共に正方行列なら AB も BA もあるが、一致しないことが多い # !!! 行列の積は交換できない !!! c_ij = A の第 i 列と B の第 j 列の組み合わせ = a_i1 b_1j + a_i2 b_2j + .. + a_im b_mj = \sum_{k=1}^m a_{ik} b_{kj} # 型が変ったり、あるは、交換ができなかったり、色々不便だが、次のような性質はなりたつ [定理] (AB)C = A(BC) proof) A = ( a_ij ) : (k,l) 型 B = ( b_ij ) : (l,m) 型 C = ( c_ij ) : (m,n) 型 とする。 # まず、型が一致しているかどうかを確認する AB = ( d_ij ) : (k,m) 型 (AB)C = ( e_ij ) : (k,n) 型 一方、 BC = ( f_ij ) : ( l,m ) 型 A(BC) = ( g_ij ) : ( k,n ) 型 よって、型は等しい。 # 次に、成分が等しいことを示す。 (左辺) d_iq = \sum_{p=0}^{l} a_ip b_pq e_ij = \sum_{q=0}^{m} d_iq c_pj = \sum_{q=0}^{m} ( \sum_{p=0}^{l} a_ip b_pq ) c_pj (右辺) f_pj = \sum_{q=0}^{m} b_pq c_qj g_ij = \sum_{p=0}^{l} a_ip f_pj = \sum_{p=0}^{l} a_ip ( \sum_{q=0}^{m} b_pq c_qj ) # 後は、これらが等しいことを示す。 # これらの総和は、有限個の和の計算しているだけなので、 # 加える順番を交換してもよい。 e_ij = \sum_{q=0}^{m} ( \sum_{p=0}^{l} a_ip b_pq ) c_pj = \sum_{q=0}^{m} ( \sum_{p=0}^{l} ( a_ip b_pq c_pj ) ) = \sum_{p=0}^{l} ( \sum_{q=0}^{m} ( a_ip b_pq c_pj ) ) = \sum_{p=0}^{l} ( \sum_{q=0}^{m} ( a_ip b_pq ) c_pj ) = g_ij # 行列の和は、Σが沢山出てくるの、これは慣れるしかない ( なれておくこと !! ) # !!! 普通のかけ算は出来るようにしておくこと [定義] (単位行列) E_n ( = 1_n ) とは、 n 次正方行列 で、 (i,i) 成分(対角成分) が全て 1 ( i = 1, 2, .., n ) で、 たの成分が 0 のもの。 [定理] A: (m,n) 型行列 E_m A = A A E_n = A # ここらへんも、2, 3 次と同じ [定義] (単位ベクトル) E_n = ( e_1, e_2, .., e_n ) としたとき、 e_1, e_2, .., e_n # これは i 番目が 1 で他が 0 のベクトルで を n 項単位ベクトル と呼ぶ。 [定義] ( クロネッカーのデルタ ) # これは、数学の中で、あちらこちらに出てくる 1 ( i = j ) \delta_i,j = { 0 ( i \ne j ) # これの一般化して、ディラックのΔ関数がある これを利用すると、単位行列 E_n は次のように表すことができる。 E_n = ( \delta_i,j ) : (n,n) 型 [定理] A : (l.m) 型、 B : (m,n) 型 とする。 AB = A ( b_1, b_2, .., b_n ) = ( A b_1, A b_2, .., A b_n ) 特に、B = E_n の時、 A E_n = ( A e_1, A e_2, .., A e_n ) = A = ( a_1, a_2, .., a_n ) となるので、 a_i = A e_i となる。 # これは、良く利用する。 [定理] x = ( x_i ) \in \K^n を考える x = x_1 e_1 + x_2 e_2 + .. + x_n e_n [定義] (一般の線型結合) a_1, .., a_k \in \K^n x_1, .., x_k \in K に対して、 x_1 a_1 + x_2 a_2 + .. + x_k a_k の形のベクトルを a_1, .., a_k の線型結合と呼ぶ。 [定義] (複素共役行列) A = (a_ij) に対して、\bar{A} = ( \bar{a_ij} ) を、複素共役行列という [定理] \bar{\bar{A}} = A \bar{A+B} = \bar{A} + \bar{B} \bar{cA} = \bar{c}\bar{A} \bar{AB} = \bar{A}\bar{B} [定義](転置行列) A = (a_ij) : (m,n) 型に対して、A の縦横を逆にした (n,m) 型の行列を ^tA = ( a_ji ) で表し、A の転置行列と呼ぶ。 [定理] ^t(^tA) = A ^t(A+B) = ^tA + ^tB ^t(cA) = c^tA ^t(\bar{A}} = \bar{^tA} [定理] ^t(AB) = ^tB ^tA # 最後は間違え易いので注意 proof) A = ( a_ij ) : (l,m) 型 B = ( b_ij ) : (m,n) 型 とする。 # まず、型をチェックすると AB = ( c_ij ) : (l,n) 型 ^t(AB) = ( c_ji ) : (n,l) 型 ^tA = ( a_ji ) : (m,l) 型 ^tB = ( b_ji ) : (n,m) 型 ^tA ^tB : ( n,l ) 型 なので、型は一致する。 # 次に、成分を比較する ^t(AB) の (j,i) 成分 = AB の (i,j) 成分 = c_ij ^tA ^tB の ( j, i ) 成分 = ^tB の第 j 行と ^tA の第 i 列の組み合わせ = B の第 j 列と A の第 i 行の組み合わせ = A の第 i 行 と B の第 j 列の組み合わせ = AB の ( i, j ) 成分 §区分け # 行列は成分が沢山あるので、それらをまとめて扱いたい場合がある # ブロックに分けて計算を簡単にしたい [定義] (区分け) 行列 A の縦横に区切をいれ、複数の行列の並びと考える。 この考えかたを区分けと呼ぶ A = (a_ij) に、 p-1 個の横線 q-1 個の縦線 を入れ、区分けする。 A_11 .. A_1q A = ( A_21 .. A_2q ) .. A_p1 .. A_pq == 来週は、これの証明からやる しばらくは、一向行列の話をやる 中間の範囲は、「行列の積」まで