これまで、基本変形をやってきた。実は、後、行列の計算にも基本変形を利用 するただ、これは B の範囲なので、とりあえず、今回は別の話をする。 今回は「内積」の話。ただし、「内積」は本来ならば、「一般的な線型空間」を 学んだあとに、「内積」の話をする必要があるのだが、「一般的な線型空間」は 4章なので、ここでは、「簡単な場合の内積」だけやっておく。 つまり、R^n, C^n のベクトルの内積だけをやる。 == [定義] (内積) x, y \in C^n とする ( すなわち、 (n,1) 型の行列となる ) すると、 {}^t x は (1,n) 型 になるので、 {}^t x \bar{y} は計算できて (1,1) 型になる。 これは、要素が一つだけの行列だが、その要素を取り出して、これを x と y の 「内積」と呼び、 x・y あるいは、(x,y) で表す。 これを成分表示で考えると、 x_1 x = ( x_2 ) .. x_n y_1 y = ( y_2 ) .. y_n の時、 \bar{y_1} {}^t x \bar{y} = ( x_1, .., x_n ) ( \bar{y_2} ) .. \bar{y_n} = (x_1 \bar{y_1} + x_2 \bar{y_2} + .. + x_n \bar{y_n}) = (\sum_{k=1}^n x_k\bar{y_k}) となるので、 (x,y) = \sum_{k=1}^n x_k\bar{y_k} となる。 特に、x, y \in R^n の時には、\bar{y_k} = y_k なので、 (x,y) = x_1 y_1 + x_2 y_2 + .. + x_n y_n となるので n=2 の時、 V^2 の内積 n=3 の時、 V^3 の内積 # 一般化になっている [定理](共役線型性) (x_1+x_2,y) = (x_1,y)+(x_2,y) (c x,y) = c (x,y) (x,y_1+y_2) = (x,y_1)+(x,y_2) (x,c y) = \bar{c} (x,y) (x,y) = \bar{(y,x)} # 二箇所で \bar が出てくるのが、これまでと異なるので注意 !!! # これを忘れると、長さが複素数になったり、大変な事がおきる [定理] (正値性) (x,x) \n R (x,x) >= 0 (x,x) = 0 <-> x = 0 proof) (x,x) = \sum_{k=1}^n x_k \bar{x_k} = \sum_{k=1}^n |x_k|^2 >= 0 [定義] (ノルム/長さ) \sqrt{(x,x)} を x のノルム(長さ)と呼び |x| や ||x|| = \sqrt{ |x_1|^2 + .. + |x_n|^2} で表す。 [定理](シュワルツの不等式) |(x,y)| <= |x| |y| # 平面や、空間のベクトルの時は、二つのベクトルのなす角度を考えれば # あきらか ( |\cos{\theta}| <= 1 なので.. ) だが、一般の複素数 # 成分のベクトルの角度というのは考えられないので、一般的に示す # 必要がある。 proof) y=0 の時は、両辺が 0 なので成立 y\ne 0 の時、a,b \in C に対して 0 <= | a x + b y |^2 である。 右辺 = ( a x + b y, a x + b y ) = a\bar{a} (x,x) + a\bar{b} (x,y) + b\bar{a} (y,x) + b\bar{b} (y,y) = |a|^2 |x|^2 + a\bar{b}(x,y) + b\bar{a} (y,x) + |b|^2 |y|^2 これが任意の a,b について成立するので、 a = |y|^2 b = - (x,y) を代入すると 0 <= |y|^4 |x|^2 - |y|^2 (x,y)(x,y)^2 - (x,y)|y|^2 + |(x,y)|^2 |y|^2 よって、 |(x,y)|^2 |y|^2 <= |x|^2 |y|^4 |y| \ne 0 より |(x,y)|^2 <= |x|^2 |y|^2 よって、 |(x,y)| <= |x| |y| # 後で、一般の内積でも同じ性質を示すが、証明は同じ # 列ベクトルの性質を一切利用していないので.. [定理] (三角不等式) |x + y| <= |x| + |y| # これも、平面や、空間のベクトルでは当り前だが、一般の場合は証明が必要 |x+y|^2 = (x+y,x+y) = |x|^2 + (x,y) + \bar{ (x,y) } + |y|^2 <= |x|^2 + 2|(x,y)| + |y|^2 ( 後の (*) で示す ) <= |x|^2 + 2|x||y| + |y|^2 (シュワルツ) = (|x|+|y|)^2 (*) z \in C -> z + \bar{z} <= 2 |z| proof) z = x + y i ( x, y \in R ) とすると、 z + \bar{z} = 2 x <= 2 \sqrt{x^2+y^2} <= 2|z| # x, y が共に複素数要素をもつ場合、角度と言うのは意味がないが.. [定義] (直交) (x,y) = 0 の時、x と y は直交すると言う [問 1] |x+y|^2 + |x-y|^2 = 2( |x|^2 + |y|^2 ) proof) (右辺) = (x+y,x+y) + (x-y,x-y) = |x|^2 + (x,y) + (y,x) + |y|^2 + |x|^2 - (x,y) - (y,x) + |y|^2 = 2 ( |x|^2 + |y|^2 ) = (左辺) [問 2] (ピタゴラスの定理) (x,y) = 0 -> |x+y|^2 = |x|^2 + |y|^2 proof) |x+y|^2 = |x|^2 + (x,y) + (y,x) + |y|^2 = |x|^2 + |y|^2 # じゃあ、逆はどうか ? 実は上手く行かない。 |x+y|^2 = |x|^2 + |y|^2 <-> (x,y) + \bar{(x,y)} = 0 <-> Re (x,y) = 0 <- (x,y) = 0 # -> が言えるためには、x,y \in R^n の時 # x,y \in C^n の時は、 -> は必ずしも言えない [問 3] x, y \in R^n -> (x,y) = 1/4 ( |x+y|^2 - |x-y|^2 ) proof) 左辺 = 1/4 { ( |x|^2 + (x,y) + (y,x) + |y|^2 ) - ( |x|^2 - (x,y) - (y,x) + |y|^2 ) } = Re (x,y) = (x,y) ( x,y \in R^n なので (x,y) \in R ) # x,y \in R^n が本質的に働いている。x,y \in C^n の時は成立しない == # 行列の話に戻す [定理] A : (m,n) 型, x \in C^n , y \in C^m -> (Ax,y) = (x,{}^t\bar{A}y) proof) (左辺) = {}^t(Ax)\bar{y} = {}^t x {}^t A \bar{y} = {}^t x {}^t \bar{\bar{A}} \bar{y} = {}^t x {}^t \bar{\bar{A}y} = {}^t x \bar{{}^t\bar{A}y} = (x,{}^t\bar{A}y) = (右辺) # 上記は逆も言える [定理] \forall x, y [ (Ax,y) = (x,By) ] -> B = {}^t\bar{A} proof) (x, {}^t\bar{A}y ) = ( Ax, y ) = ( x, By ) より (x,(B-{}^t\bar{A})y) = 0 # (\forall x, y ) (x,Ay) = 0 -> A=O これはしょちゅう使う より、 B-{}^t\bar{A} = 0 より、 B = {}^t\bar{A} [補題] \forall y \in C^n [ A y = 0 ] -> A = 0 proof) A = AE_m = A(e_1, .., e_n ) = (A e_1, .., A e_n ) = ( 0, .., 0 ) = 0 [補題] \forall x, y \in C^n [ (x,Ay) = 0 ] -> A = 0 proof) x = Ay とすると (Ay,Ay) = 0 よって、 Ay = 0 よって、 A = 0 [定義] (随伴行列/アジョイント行列) 行列 A に対して {}^t\bar{A} を A の随伴行列(アジョイント行列)と呼び A^* で表す。 [定義] (エルミート行列) A = A^* の時、 A をエルミート行列と呼ぶ 特に A が実行列の時、 A を実対称行列と呼ぶ ( {}^t A = A の時、対称行列と呼ぶので.. ) # A = (a_{i,j}) とすると、a_{i,j} = a_{j,i} となる。 [定義](ユニタリ行列) AA^* = E の時、A は「ユニタリ行列」と言う。 特に実ユニタリ行列を、「直交行列」と呼ぶ # なぜ、「直交」と呼ぶかは、後で述べる [定理] A : ユニタリ -> A : 正則 proof) A^*A = AA^* = E よって A^* = A^{-1} [定理] A,B : ユニタリ -> AB : ユニタリ proof) (AB)^*(AB) = (B^*)(A^*A)B = (B^*)EB = (B^*)B = E [定理] (A^*)^* = A (A+B)^* = A^* + B^* (cA)^* = \bar{c}A^* (AB)^* = B^* A^* [定理] A : ユニタリ -> A^* : ユニタリ proof) (A^*)^* A^* = A A^* = E # 積で閉じていて、逆元が存在するので要するに「群」となっている # 「群」は、2, 3 年で学ぶ # ここでは「名前」だけ紹介しておく [定義] U(n) = { n 次 ユニタリ行列全体 } : n 次ユニタリ群 O(n) = { n 次 直交行列全体 } : n 次直交群 # 本当は、ここで、ユニタリ行列の必要十分条件をやる必要があるが、今回は # 時間がないので、次に回して、今回は、その続きをやる [例] A = ( \cos{\theta} -\sin{\theta} ) \sin{\theta} \cos{\theta} は、2 次直交行列 proof) A^*A = ( \cos{\theta} -\sin{\theta} ) ( \cos{\theta} \sin{\theta} ) \sin{\theta} \cos{\theta} -\sin{\theta} \cos{\theta} = E [問 1] 2 次の直交行列を全て求めよ A = ( a b ) c d とすると、 A^*A = ( a b ) ( a c ) = ( 1 0 ) c d b d 0 1 より、 a^2 + b^2 = 1 c^2 + d^2 = 1 a b + c d = 0 これより、点 (a,b), (c,d) は、単位円 ( x^2 + y^2 = 1 ) 上にあり、 また、最後の条件は、二つの点の位置ベクトルが直交していることを 意味するので、(a,b) と x 軸のなす角度を \theta とすれば、 A = ( \cos{\theta} -\sin{\theta} ) (回転) \sin{\theta} \cos{\theta} または、 A = ( \cos{\theta} \sin{\theta} ) \sin{\theta} -\cos{\theta} となる。