行列式の展開 [定義] A : n 次行列 第 i 行 第 j 列を除いてできる n-1 次小行列を A の 第 (i,j) 小行列とよび、 Δ_{i,j} で表す。 それに符号 (-1)^{i+j) を掛けたものを A の i,j 余因子と呼び、 \~a_{i,j} で表す。 [定理 3.1] |A| = a_1j \~a_1j + a_2j \~a_2j + .. + a_nj \~a_nj ( 第 j 列に関する展開 ) |A| = a_i1 \~a_i1 + a_i2 \~a_i2 + .. + a_in \~a_in ( 第 i 行に関する展開 ) proof) (j=1 の時) a_11 a_11 0 0 ( a_21 ) = ( 0 ) + ( a_21 ) + .. ( 0 ) .. .. .. .. a_n1 0 0 a_n1 なので、行列式の多重線型性より、 |A| = | a_11 a_12 .. a_1n | | 0 a_22 .. a_2n | | .. | | 0 a_n2 .. a_nn | + | 0 a_12 .. a_1n | | a_21 a_22 .. a_2n | | .. | | 0 a_n2 .. a_nn | + .. + | 0 a_12 .. a_1n | | 0 a_22 .. a_2n | | .. | | a_1n a_n2 .. a_nn | これを行の交換を利用して、0 でない項目が一番上になるようにすると = | a_11 a_12 .. a_1n | | 0 a_22 .. a_2n | | .. | | 0 a_n2 .. a_nn | - | a_21 a_22 .. a_2n | | 0 a_12 .. a_1n | | .. | | 0 a_n2 .. a_nn | + .. + (-1)^{n-1} | a_1n a_n2 .. a_nn | | 0 a_12 .. a_1n | | .. | | 0 a_{n-1}2 .. a_{n-1}n | よって、 = a_11 Δ_11 - a_21 Δ_21 + .. + (-1)^{n-1} a_1n Δ_1n = a_11 \~a_11 + a_21 \~a_21 + .. + a_1n \~a_1n (一般の場合) # j=1 の場合に還元する j 行目を一行ずつ上に移動して、一番上にもってくる |A| = (-1)^{j-1} | a_1j a_2j .. a_nj | | a_11 a_21 .. a_n1 | | .. | | a_1n a_2n .. a_nn | j=1 の場合を適用すると、 = (-1)^{j-1} ( a_1j Δ_1j - a_2j Δ_2j + .. + (-1)^{n-1} a_jn Δ_jn ) = a_j1 \~a_j1 + a_21 \~a_21 + .. + a_jn \~a_jn となる。 これで、行に関してできたが、転置することによって、列に関してもできる。 # この方法を利用して、行列式を計算してみる [例] | 3 -2 5 1 | | 1 3 2 5 | | 2 -5 -1 4 | | -3 2 3 2 | # これを、直接、展開してもよいが、そうすると、項の個数がグンと増える # もし、0 の要素があれば、項の個数を減らすことができる # もし、0 の要素がないなら、基本変形を利用して、作ってしまえ !! (2,1) を軸に、列を掃き出す = | 0 -11 -1 -14 | | 1 3 2 5 | | 0 -11 -5 -6 | | 0 11 9 17 | 1 列目で展開すると = (-1)^(1+2) | -11 -1 -14 | | -11 -5 -6 | | 11 9 17 | # ここで、あとは、サラスの方法を利用すればよいのだが、 # 練習だと思って、更に進める 1 列目から 11 で括りだす = (-11) | -1 -1 -14 | | -1 -5 -6 | | 1 9 17 | .. このように、基本変形をおこなって、0 の要素を作り、展開で次元を下げる。 [注意] 問題が具体的な数の時には、一つの要素を残し他は 0 にしたが、これ に拘る必要はない。定理 3.1 は、別に 0 でなくても利用できる ( が、項が増 えるというだけ )。 未知数を含む場合、0 にしようとすると、未知数を含む式で割り算が必要にな る場合がある。すると、割る数が 0 かどうかの場合分けが必要になるので、却っ て面倒。その場合は、無理に 0 にせず。そのまま展開した方が楽な事が多い。 # この展開のもう一つの応用 [定理 3.2] a_1j \a_1l + .. a_nj \a_nl = δ_{jl} |A| a_ii \a_k1 + .. a_ni \a_nk = δ_{ik} |A| proof) j=l の時は、 左辺は |A| = 1 |A| = δ_{jj} |A| j\ne l の時は、 左辺は det( a_1, ,,., a_j, .., a_j, .., a_n ) これは同じ列を含むので、0 すなわち、 左辺 = 0 = 0 |A| = δ_{jl} |A| [定義] \~a_{ji} を (i,j) 成分とする n 次行列を A の余因子行列とよび \~A で表す。 \~a_11 \~a_21 .. \~a_n1 \~A = ( \~a_ji ) = ( \~a_12 \~a_22 .. \~a_n2 ) .. \~a_1n \~a_2n .. \~a_nn \~AA の (l,j) 成分を考えると a_1j \a_1l + .. a_nj \a_nl = δ_{jl} |A| となる。すなわち、[定理 3.2] より、 δ_{jl} |A| に等しい。 これより、 \~AA = ( δ_{ij} |A| ) = |A| ( δ_{ij} ) = |A| E となる。 同様に、 A\~A の (i,k) 成分を考えると a_ii \a_k1 + .. a_ni \a_nk = δ_{ik} |A| となるので、 A\~A = |A| E となる。 # 上記の結果をまとめたものが次の系 [系 3.3] \~AA = A\~A = |A| E [系 3.4] A : 正則 <-> |A| \ne 0 この時、 A^{-1} = |A|^{-1} \~A proof) (|A|^{-1} \~A) A = A (|A|^{-1} \~A) = E # これは行列式の計算だけから、逆行列を計算するもう一つの方法になっている # ただ、一般には、これまでに学んだ、基本変形で計算した方がよい # これを利用するのは特別な場合で、未知数を含んでいる場合など # これの応用として、連立方程式の解を求める公式がある。 連立方程式 Ax = b で、A が正則行列の時、 x = A^{-1}b となる、ただ一つの解を持つ。 A = ( a_ij ) x_1 x = ( x_2 ) .. x_n b_1 b = ( b_2 ) .. b_n とすると、 x_1 \~a_11 \~a_21 .. \~a_n1 ( x_2 ) = |A|^{-1} ( \~a_12 \~a_22 .. \~a_n2 ) .. .. x_n \~a_1n \~a_2n .. \~a_nn b_1 \~a_11 b_2 \~a_21 .. b_n \~a_n1 = |A|^{-1} ( b_1 \~a_12 b_2 \~a_22 .. b_n \~a_n2 ) .. b_1 \~a_1n b_2 \~a_2n .. b_n \~a_nn ここで、 |A_1| = b_1 \~a_11 b_2 \~a_21 .. b_n \~a_n1 とすると、 b_1 a_12 .. a_1n A_1 = ( b_2 a_22 .. a_2n ) .. b_n a_n2 .. a_nn これは、元の行列 A の 1 列目を b に書換えたものになっている。 同様に、 a_11 a_12 .. b_1 .. a_1n A_j = ( a_12 a_22 .. b_2 .. a_2n ) .. a_1n a_n2 .. b_n .. a_nn ↑ j 列目 # A の j 列目を b に置き換えたもの。 となる。 # これをまとめたものが次のクラーメルの公式 [定理 3.5] (クラーメルの公式) 連立方程式 Ax = b の解は、 |A_j| x_j = ----- |A| である。 # ここでも、答が、行列式だけから計算できるが、やっぱり、 # 一般には、基本変形の方が楽。 # ただ、やっぱり、未知数を含む場合は、その限ではない。 [例] a, b, c は相異なる x + y + z = 1 a x + b y + c z = d a^2 x + b^2 y + c^2 z = d^2 これの係数行列を考えると 1 1 1 A = ( a b c ) a^2 b^2 c^2 ここで、文字を含むので、クラーメルを考える。クラーメルをするには、 まず、正則かどうかを確認する必要があるが、 | 1 1 1 | |A| =| a b c | = Δ(a,b,c) = (c-b)(c-a)(b-a) | a^2 b^2 c^2 | はヴァンデルモンド ( なので、差積になり、問題の条件より 0 にならない )。 よって、クラーメルが使える。 | 1 1 1 | |A_1| = | d b c | = Δ(d,b,c) | d^2 b^2 c^2 | | 1 1 1 | |A_2| = | a d c | = Δ(a,d,c) | a^2 d^2 c^2 | | 1 1 1 | |A_3| = | a b d | = Δ(a,b,d) | a^2 b^2 d^2 | となり、いずれもヴァンデルモンド。よって、 (c-d)(b-d) x_1 = ---------- (c-a)(b-a) (a-d)(c-d) x_2 = ---------- (a-b)(c-b) (b-d)(a-d) x_3 = ---------- (b-c)(a-c) となる。 == 章末問題 # 全部の列を足すと、同じなるパターンがある。 # => この場合は、一列目に、他の列を全て加える 問1 ロ) | x a_1 a_2 .. a_n | | a_1 x a_2 .. a_n | | | | a_1 a_2 .. x | ## やりかたとして、多項式の性質を利用する場合と、行列式の展開を利用するやりかたの ## 二通りがある。 # まずは、行列の展開で考える 一列目に二列目以後を加えると、一列目には、共通の x + a_1 + a_2 + a_n がでてくる。 # この「共通因子を外へ出す」という作業は、今回はやらなくてもよいので、省略しても # よいが、これが必要な場合もある。 そこで、その部分を括りだすと、1 が並ぶ | 1 a_1 a_2 .. a_n | ( x + a_1 + a_2 + a_n ) | 1 x a_2 .. a_n | | | | 1 a_2 .. x | 2 列目から 1 列目の a_1 倍を引く 3 列目から 1 列目の a_2 倍を引く .. n+1 列目から 1 列目の a_{n} 倍を引く とすると、下三角行列になる | 1 0 0 .. 0 | ( x + a_1 + a_2 + a_n ) | 1 x -a_1 0 .. 0 | | | 1 a_2-a_1 .. x -a_n | よって、対角要素の積で ( x + a_1 + a_2 + a_n )(x-a_1) .. (x-a_n) となる。 # これから、「与式 = 0」という方程式の解が、 # -( a_1 + a_2 + a_n ) # a_1 # a_2 # .. # a_n # であることが解る。逆にこれを利用するという方法でも解ける。 == 11/26 日に中間テストの予定 来週は、3 章の行列式を終りにして、4 章に入るが、試験の範囲は、3 章の行列式までとする。 とりあえず、「普通の計算」は出来るように !!!